【美土路の見どころ】 日本以外の「ティア2」も善戦 強豪との交流増えればラグビーはもっと面白い

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美土路昭一(みどろ・しょういち)

ラグビー独特の固定された序列「ティア」。ティア2の日本の躍進で、序列間の交流のあり方が問われている。見直しは、日本以外のチームにとっても意味が大きい。

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の1次リーグでは幾多の素晴らしいトライが生まれたが、その中で最も話題を集めた一つが、ナミビア戦でオールブラックス(ニュージーランド代表チームの愛称)のTJ・ペレナラが奪ったトライだろう。

オールブラックスは自陣からボールを回して相手防御ラインを突破し、その後は倒れながらのオフロードやラックからの早い持ち出し、パスする相手を見ずに背中越しに放るパスなどを織り交ぜて、最後はペレナラがタックルを受けながら軽業師のような身のこなしでコーナーギリギリに飛び込んだ。

一般にはニュージーランドのすごいトライとして拡散しているシーンだが、私にとっては、この試合でナミビアが見せ続けた健闘を象徴するシーンだ。

見事な守りあっての美しいトライ

たやすくラインブレイクを許したのはいただけないが、そこからのあきらめない守りが素晴らしかった。逆を突かれて倒れながら必死に手を伸ばして倒す。タックルしてラックができるとすぐに立ち上がり、サイドを突いてきた選手をまたタックル。それでもつながれてコーナーに走るペレナラを、プロップの選手が必死に追って手をかけ、わずかにでも体勢を崩すと、ラインブレイクされた直後にタックルに行った選手が戻ってきて、しっかり走り込んで身体を当て、バインディングもする教科書通りのタックルをしている。

これが80分間戦ってきた後の試合終了直前のプレーというところに、ナミビアの闘志と質の高さを感じた。


相手が一枚も二枚も上のオールブラックスだったから結局トライになってしまったが、最初のラインブレイクの後、そのまま独走となったなら、何の変哲もないソフトトライの一つに終わっていただろう。ナミビアの頑張りがオールブラックスの良さを引き出した結果の美しいトライだった。

差は縮まっている?

ナミビアのようなティア2(世界の第2グループ)のチームの戦いぶりについて、競技の国際統括団体であるワールドラグビーが、大会組織委員会と共同で15日に開催した1次リーグ終了を受けての記者会見の中で言及した。ティア2チームとW杯2連覇中のニュージーランドや発祥の地のイングランドなど10カ国・地域からなるティア1(世界のトップグループ)チームとの対戦における平均の点差は30点に減少していると指摘している。

しかし、ここには一つのトリックが隠れている。

ティア2チーム対ティア1チームの24試合の中には、当然、日本がティア1のアイルランドとスコットランドに勝った試合も含まれている。この2試合を除いた22試合の平均点差を計算すると34.2点。2015年W杯のティア2チーム対ティア1チームの24試合から日本が南アフリカに勝った1試合を除いた平均点差32.8点と比べると、実はわずかながら増加している。

ティア2全般がレベルアップしたのではなく、日本が突出して好成績を収めた格好だ。

スコア以上に善戦したナミビア

日本はティア2チームの失点ワースト記録の1位(1995年W杯のニュージーランド戦の145点)だけでなく、7位タイ(2007年W杯のオーストラリア戦の91点)と15位(2011年W杯のニュージーランド戦の83点)にも名を連ねて、2大会前まではティア2チームの成績の足を引っ張っていた。それが、今や1国でティア2チームの記録を底上げする存在になった。

数字だけをみると、この4年間、日本を除いたティア2の進歩は足踏み状態だ。しかし、スタジアムで、あるいは、テレビで試合をみた印象は異なる。

実際のところ、この大会で、ティア2チームはいかに戦ったのか。

BBCスポーツのマイク・ヘンソン記者は「Are Tier Two nations closing the gap?(ティア2諸国は格差を縮めているのか)」の中で、ナミビアはニュージーランド戦で2015年W杯での対戦時に比べて得点以外はすべての項目で差を縮めたと指摘している。

得点差は4年前の58-14よりも広がったが、この時はボールを持って前進した距離はわずか57メートルでボール保持率は30%、地域獲得率27%だったのに対し、今回はそれぞれ302メートル、46%、43%と伸びているという。ナミビアはこの試合、何度も見事な攻撃を見せてニュージーランドのインゴールを脅かし、前半35分までは9-10という大善戦だった。

足りない強豪との対戦

大善戦はナミビアだけではない。

2011年W杯でフランスを破る番狂わせを演じたトンガは今大会でもフランスを21-23と2点差まで追い詰めた。フィジーもオーストラリアを後半20分過ぎまで21-20とリードし(最終スコアは39-21)、ウェールズ相手にも後半13分に17-14と逆転するなど後半半ばまで互角にわたりあった(最終スコアは29-17)。さらに、ウルグアイはウェールズを前半6-7(最終スコアは13-35)と苦しめ、ジョージアはオーストラリアと前半35分まで3-7の接戦(最終スコアは8-27)を演じている。


しかし、日本を除くティア2チームは番狂わせを起こせず、ナミビアもニュージーランドからトライを奪えなかった。

日本は2015年W杯以降、2016年6月のスコットランド戦から今年9月の南アフリカ戦までにティア1の全10チームと計12試合を戦っている。

一方、同じW杯サイクルで他のティア2のティア1との対戦歴を見ると、フィジーは6チームと計8試合を戦っているが、トンガは今年9月にニュージーランドの最後のウォーミングアップマッチとして戦った試合を含めて3チームと計4試合。ジョージアは今年8月と9月にW杯に向けたウォーミングアップマッチでスコットランドと計2試合を戦うなど4チームと計6試合戦ったが、ニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアという南半球の強豪3カ国は含まれていない。ウルグアイはアルゼンチン選抜やエマージング・イタリア(若手選手の選抜チーム)などフル代表より下のレベルのチームとしか対戦がなく、ナミビアはW杯以外でのティア1との対戦は2007年8月に南アフリカに13-105で敗れた試合まで遡る。

世界トップクラスのチームとの厳しい試合経験の不足が、ティア2のチームが勝ちきれなかったり、トライを奪えなかったりと壁を越えられない大きな要因の一つだ。

「もっと強くなれる」

ヘンソン記者が記事中で紹介しているティア2チームの選手や監督のコメントでも、この点を訴える声は多い。

ナミビアのナンバー8、ヤンコ・フェンター

「アフリカ中の全ての国と試合して80点差で勝つより、毎週オールブラックスと試合をしたい。もしそれができれば、学び続け、向上し続けられるので、今に私たちは強くなれる」

トンガのトウタイ・ケフ監督

「私たちはもっと質の高い試合をすることが必要だ」

ウルグアイのエステバン・メネセス監督

「(W杯では)世界トップクラスと試合をしているが、こうした強豪ともっと多く試合ができれば、私たちはもっと強くなれると確信している」

ティア間の積極的な交流を

ワールドラグビーはより多くの競った試合を実現するため、今大会に向けたティア2の強化策として4年間で合計6200万ポンド(約86億7000万円)を投資している。その内容は選手日当の補償やコーチの派遣といった各国協会への直接的、間接的な資金援助のほか、代表強化の場となる大会の開催などだ。

しかし、現状では、大会は日本やフィジーなど太平洋諸国とアメリカ、カナダが参加するパシフィック・ネーションズカップのようにティア2同士の対戦にとどまっている。

日本の大躍進を受け、英国やニュージーランドなどのメディアでは、シックスネーションズやラグビーチャンピオンシップというティア1の大会に日本を参加させるべきだという記事が相次いだ。

第二の日本となれる可能性を秘めたティア2の国はほかにもある。日本だけでなく、広くティア2とティア1の交流のあり方を見直すべき時期に来ている。

※アジア初開催ラグビーW杯。BBC NEWS JAPANでは日本戦や注目試合の結果をお伝えするとともに、ラグビーを長年取材してきた美土路昭一氏のコラム<美土路の見どころ>を不定期に掲載しています。


美土路昭一(みどろ・しょういち)朝日新聞記者(ラグビー担当)としてラグビーW杯1995南アフリカ大会を取材。元日本ラグビーフットボール協会広報・プロモーション部長。早稲田大ラグビー部時代のポジションはSH。1961年生まれ。