助成金問題で騒がれた西成ロケ作品が封印解除! 観る者の脳内麻薬を分泌させる過激作『解放区』

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 走り続けていると次第に息が苦しくなるが、しばらく我慢するとある時点から得もいえぬ快感が生じてくる。脳内麻薬が分泌されている、ランナーズハイと呼ばれる状態だ。太田信吾監督の劇映画デビュー作『解放区』には、ランナーズハイならぬ”フィルムズハイ”が感じられる。舞台となる大阪のドヤ街・西成でロケ撮影していることに、主演も兼ねた太田監督をはじめとするスタッフ&キャスト全員の気持ちがハイになり、その心情の高ぶりとシンクロしながら物語が進んでいく。引きこもり、ドラッグ、セックス、ホームレス……、ヤバい要素が山盛りの内容に、観ているこちらのテンションまでハイになる。取り扱い要注意なドラッグムービーが、5年間のお蔵入り状態からようやく封印を解かれた。

 本作の撮影が行われたのは2014年。現在は閉鎖された「あいりん労働福祉センター」が健在で、1階は日雇い労働者たちの寄せ場となっていた。地元住民たちの協力を得た撮影クルーは、無料の炊き出しに並び、コンビニの賞味期限切れのおにぎりや3つで100円の菓子パンを頬張りながら、西成でカメラを回し続けた。大阪アジアン映画祭で上映される作品として大阪市から助成金60万円を受けていたが、西成の三角公園などにたむろするオッチャンたちの顔がそのまま映っていることから、一連のシーンをカットするよう求められた。太田監督はスタッフ&キャストと協議した結果、助成金を返上し、独自に上映できる場を探す道を選ぶ。ハングリーさと映画に対する熱量だけで完成させた高純度のインディーズ映画、それが『解放区』だ。

 スタッフ&キャストだけでなく、観客の心のタガまで外してしまう『解放区』はこんな物語だ。主人公はドキュメンタリー作家を目指す28歳の男性・須山(太田信吾)。「若者のリアリティー」を求めて、新しいドキュメンタリー作品を撮ることを夢想しつつも、小さな映像制作会社でADとして働いている。須山たちの撮影クルーは引きこもりの男性・本山(本山大)とその家族を取材しようとするが、取材現場で須山は会社の上司であるディレクター(岸健太朗)と衝突してしまう。取材対象に自分の価値観を押し付けて撮影しようとするディレクターの上から目線なやり方に、須山は従うことができなかった。

 東京はダメだ。大阪に行けば、もっと自由にドキュメンタリーを撮ることができるはず。そう考えた須山はテレビ局からOKが出ていない自分の企画を進めるため、カメラを手に大阪へと向かう。3年前に取材した「将来の夢なんかねぇ」と煙草をふかしながら語った不良少年のその後を追うためだった。だが、音信不通状態となった不良少年をひとりで探し出すのは不可能に近い。そこで須山は先日の取材で知り合ったばかりの本山に電話し、大阪へと誘い出す。引きこもりの素人にADをやらせるという無茶ぶりだったが、本山はこの誘いに応じ、大阪行の夜行バスに乗り込む。彼もまた息苦しい実家から飛び出す機会を求めていた。

 大阪・西成はとても自由な街だった。誰でも簡単にホームレスになれるし、ジャンキーにもなれる。東京から来た須山と本山はビラを配りながら、不良少年を探すが、そう簡単には見つからない。失踪することすら簡単な街だった。やがて別行動するようになった須山は呑み屋で意気投合した名前のない女、自称・AV女優(琥珀うた)との生セックスを楽しむ。一方、真面目に不良少年を探し続けていた本山だが、街でボクシングジムを見かけ、大学時代にキックボクシングの練習に打ち込んでいたことを思い出す。東京で居場所を失った須山と本山だったが、どん底の街に辿り着き、すべてのしがらみから解放される心地よさを感じていた。

 とことん自由な街・西成は、逆にいえば誰もが剥き出し状態にされる街でもある。「若者のリアリティー」を求める須山は、自分の都合しか考えない薄っぺらい人間であることが露呈していく。本山が仮払いした経費をまったく精算しようとしない須山に、それまで我慢していた本山がブチ切れる。肝心の不良少年は見つからず、所持金のなくなった須山は、西成という街のリアリティーに呑み込まれてしまう。本山もまた東京から逃げ出したものの、ずっと不仲だった家族との関係性や今後の生活はどうするのかといった根本的な問題を突き付けられる。どん底の街で、さらなるどん底へと落ちていく須山と本山。そんな中、須山はダメ人間なりのリアリティーを求めて、ある決断を下すことになる。

 3週間にわたってドヤ街で合宿生活を送りながら撮影された、ディープ関西の生々しさに目がクギづけとなる。無料の炊き出しや教会が用意した食パンの配給にオッチャンたちが並び、公園では地元出身のラッパーが無料ライブを開いている。飛田新地のちょんの間では、美女が微笑む。どん底の街ならではの、底抜けな自由さが映像には溢れている。ひげ面で青臭い理想を口走るキモい系の主人公・須山を演じた太田監督、太田監督とは長年の知人で撮影時は無職状態だったという本山役の本山も、初めての劇映画と西成という街の特殊性に浮かれ、テンションが上がりまくっている。どこまでが演技なのか、それとも現実なのか。劇映画とドキュメンタリーの境界線さえも取っ払われた自由奔放さが本作にはある。

 

 クライマックスでは、本物の元シャブの売人がカメラの前に姿を現わし、精神的にも肉体的にも追い詰められた太田監督、いや須山に、「これを打てば、元気になるでぇ」とシャブを勧める。元本職だけに、注射器を扱う手つきもスムーズそのもの。極度の緊張のためにブルブルと震える須山、いや太田監督は目の前に差し出された“西成のリアリティー”を体感することになる。

 どこまでがリアルで、どこからがフィクションなのか、映画『解放区』において、そのボーダーはとても曖昧だ。助成金問題は太田監督が返上したことで解決したものの、危険な匂いのする本作は配給がなかなか決まらず、映画の完成から一般公開までに5年の歳月を要することになった。本編中に映っていた「あいりん労働福祉センター」はすでに閉鎖されている。お蔵入り寸前だった幻の映画『解放区』に、あなたはどんなリアリティーを見い出すだろうか。

(文=長野辰次)

『解放区』

監督・脚本・編集/太田信吾

出演/太田信吾、本山大、山口遥、琥珀うた、佐藤亮、岸健太朗、KURA、朝倉太郎、鈴木宏侑、籾山昌徳、本山純子、青山雅史、ダンシング義隆&THE ロックンロールフォーエバー、SHINGO★西成

配給/SPACE SHOWER FILMS R18+ 10月18日(金)よりテアトル新宿、11月1日(金)よりテアトル梅田ほか全国順次公開

(c)2019「解放区」上映委員会

http://kaihouku-film.com

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