ある「美人女子大生」が金正恩に宛てた遺書の壮絶な中身

韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)によれば、北朝鮮の首都・平壌で8月中旬、21歳の女子大生が投身自殺する事件があったという。そしてその女子大生は自ら死を選択するに当たり、金正恩党委員長に宛てた手紙形式の遺書を書いていたという。

平壌で貿易業に従事するLKPの消息筋によれば、この女性は、張鉄久(チャン・チョルグ)平壌商業総合大学の学生だったという。同大学は、レストランやホテルなど観光分野で働く人材の養成機関だ。卒業後は外国人が利用する高級ホテルなどに配属され、中国などの北朝鮮レストランで働く美人ウェイトレスたちも、多くがここの卒業生だ。

そのため北朝鮮女性の間で非常に人気が高い大学であり、この女子大生も「才色兼備」の人材であったと想像できる。LKPの消息筋によれば、彼女の父親は軍の護衛司令部勤務だったというから、まさにエリート家庭だ。

しかし、今回は父親の経歴が悲劇の発端になったようだ。

LKPは28日付で、北朝鮮の首都・平壌で大規模な粛清が進行中だと伝えている。それによると、平壌では現在、秘密警察である国家保衛省と軍の保衛司令部が1200人余りの幹部クラスを拘束し、反国家行為の容疑で調査を行っているという。

このような情報は、今のところLKP以外の媒体では言及されていない。ただ、気になる動向もある。北朝鮮では、制裁不況が深刻化する中で治安が悪化。それを抑え込む目的からか、北朝鮮当局はしばらく控えていた公開処刑を再開している。

また、カン某氏が現在の現地の雰囲気を、1990年代の「深化組事件」に例えているのも気になる。同事件は、「苦難の行軍」と呼ばれた未曽有の食糧危機のさなか、民衆の不満が体制に向かわないようにするために、金正日総書記がでっち上げた大規模なスパイ事件である。

現在の北朝鮮もまた、制裁不況により深刻な経済難の中にあると言われる。金正恩党委員長が「民衆の不満」が向かう方向に危機感を抱いたとしても、決して不思議ではない。

件の女子大生の父親も反国家行為の容疑で拘束され、そのまま消息不明になっているとのことだ。このようにして父親が罪に問われた場合、妻は強制離婚させられ、子供と一緒に地方へ追放されるのが普通だ。当然、大学からも追放される。

この一家に対しても同様の措置が取られたもようで、女子大生が自ら死を選んだ理由もここにある。もしかしたら北朝鮮では、粛清の嵐が吹き荒れるたびに、こうした出来事が数多く起きているのかもしれない。

ただ、彼女が金正恩氏に宛てた遺書を残していたことは、関係者の間で衝撃を呼んだようだ。当然、彼女の自殺も遺書があった件も、当局により徹底的に隠ぺいされている。しかしLKPによれば、彼女は大学のイントラネット掲示板のようなものに遺書のスキャンファイルをアップロードしていたとのことで、それを見た学生たちにより噂が広まっているとのことだ。

では、彼女の遺書には何と書かれていたのか。

LKPの消息筋によれば、遺書には金正恩氏に対し、「私たちの父のような忠臣の中の忠臣を陥れた悪い奴らを断罪してほしい」との内容があるという。素直に読めば、彼女は金正恩氏に対して敵意を抱いていないように思える。

だが、消息筋の解説は違う。ことの背景を知る平壌市民がこれを読めば、金正恩をはじめとする権力層に対する、怒りの叫びであると理解するはずだという。

金正恩氏の恐怖政治が支配する北朝鮮においては、真に公正な正義を期待することなどできない。恨みを晴らすために出来そうなことと言えば、独裁者の巨悪をもって、より小さな悪を罰することぐらいなのだ。


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