イギリス議会、離脱協定案の審議開始 注目点は?

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イギリス議会は19日午前、37年ぶりに土曜日に審議を始めた。ボリス・ジョンソン首相と欧州連合(EU)が取りまとめた離脱協定案について採決するのが目的だが、与野党で様々な駆け引きが続いており、情勢は不透明だ。

下院(定数650)は午前9時半(日本時間午後5時半)に審議を開始した。終了時間は分かっていない。一方、上院は午前10時に開会し、午後3時の終了を予定している。

ジョン・バーコウ下院議長は冒頭で、可決されればブレグジット(イギリスのEU離脱)期限の再延期を首相がEUに要請しなくてはならない、議員提出の修正案を審議すると決定した。

続いてジョンソン首相は、EUも国民もこれ以上の延期は求めていないと強調し、国民の過半数が求めたブレグジットを離脱期限の10月31日以降に延期するのは国を「侵食」するような悪影響をもたらすと述べた。首相は、国民投票の結果を「民主主義者」としてついに実現すべく、離脱協定をこの日の内に可決するよう呼びかけた。

このあとに登壇した最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、政府がEUと合意した協定案は「最悪」で、今年前半に下院が3回にわたり否決したメイ前政権の協定案よりもひどい内容だと批判。経済への影響評価も含まれず、イギリスの労働者にとって不利で、環境保護を悪化させる、国民への「背信」だと主張し、否決すべきだと述べた。

ジョンソン首相の離脱協定案が可決されるのは、320票が必要。与党・保守党は単独過半数を持たないが、労働党からは少なくとも9人が協定案に賛成するものとみられている。また、首相のブレグジット対策や議会運営に抗議して造反し、9月に保守党を除名された21人のうち数人が、首相の協定案を支持する可能性がある。

一方で、2017年から保守党に閣外協力してきた北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)は、新しい離脱協定案が北アイルランドをイギリスの他地域と別扱いすることを強く懸念し、反対する方針。労働党や自由民主党などの野党も協定案に反対する方針のため、投票結果はきわめて僅差になるものとみられている。

離脱協定案の投票はいつ?

ジョンソン首相はこの後、ブレグジット協定案について数時間にわたり議員の質問を受ける。

さらに、議員が提出した協定案に対する修正案の中から、バーコウ議長が選んだ元保守党のサー・オリヴァー・レトウィン議員の案が審議・採決される。

レトウィン案では、「離脱協定法案(WAB)」が可決するまで、下院による離脱協定案承認を棚上げするとしている。

この修正案には労働党のヒラリー・ベン議員、自由民主党のジョー・スウィンソン党首、ウェールズ党プライド・カムリのリズ・サヴィル・ロバーツ英議会代表といった野党議員に加え、元保守党で閣僚経験のあるデイヴィッド・ゴーク議員、フィリップ・ハモンド議員なども賛同を示している。

レトウィン案の目的は、離脱協定案が可決された後に合意なし離脱に転じる可能性を回避することだ。レトウィン議員は、協定案が下院通過後に上院で却下されたり、可決後の法制化プロセスで一部の議員が態度を変えたりすることを懸念している。

そのため、協定案とレトウィン案が共に下院で承認された場合には、ジョンソン首相はEUに来年1月末までの離脱期日の延期を要請する必要がある。

その後、閣僚によって協定案の審議が開始されるが、誰が審議を進行するかはまだ発表されていない。

投票が始まるのは午後2時半(日本時間午後10時半)以降になる見通しだが、先に審議されるレトウィン案が可決された場合、政府は審議を中断し離脱協定案の採決を21日に延期する可能性がある。

レトウィン案が可決された場合のシナリオ

レトウィン案が承認された場合、離脱協定案が可決されても以下のような修正が入る。

・ジョンソン首相は19日中に、来年1月31日までの離脱延期をEUに要請する必要がある

・首相はその後、離脱協定を法制化するためのWABを提出するとみられる

・イギリス議会は2018年EU離脱法13条に基づき、離脱前に「意味ある投票」とWABの両方を可決する必要がある

・ただし、新しいWABに「意味ある投票」は必要ないという条項が含まれていた場合には、WABだけが可決されれば承認となる

・首相が法制化手続きを迅速に行えば、イギリスはなお10月31日にEUを離脱できる可能性がある

・しかし法制化手続きは長引く可能性があるほか、下院・上院双方から修正案が出る可能性も残されている

協定案が可決されたらどうなる?

修正案がない状態で政府の離脱協定案が可決されても、この協定案を法律にするにはまだ手続きが必要だ。

政府は早急に、10月31日の期限に間に合うよう動くだろう。週明けには、離脱協定を法制化するための「離脱協定法案(WAB)」が下院に提出されるはずだ。

一方、修正案付きで協定案が可決された場合は、離脱期日が遅れる可能性が高い。

協定案が否決された場合は?

下院が協定案を否決した場合、予定通りであれば、政府は合意なし離脱の可否について投票を行う可能性が高い。

合意なし離脱の動議をめぐっては、最大野党・労働党のピーター・カイル議員が、合意なし離脱を拒否するとともに、イギリスとEUの将来の関係についての「最終決定」を国民投票に委ねるべきだという修正案を提出している。

さらに、下院は9月、合意なしブレグジットを回避するための通称「ベン法」を成立させている。そのため、この動議が下院を通過する可能性は低いといえる。

協定案も合意なし離脱も否決された場合、ジョンソン首相はベン法の規定により、EUにブレグジット期限の延長を要請しなくてはならない。

なぜレトウィン案が注目されているのか

レトウィン案の方策は、ジョンソン政権にとって頭の痛い問題だと、BBCのマーク・ダーシー議会担当編集委員は指摘する。

政府がブレグジットをめぐる議論で学んだことは、超党派の修正案や動議がもっとも危険をはらんでいるということだ。

ひとつの政党による提案は大抵、ひとつの立場を示すためのものだが、複数の政党の議員が支持できる提案は、より深刻な脅威をもたらす。

レトウィン案の巧みに構築された主張には、離脱協定は必要だと思っているが、今回の協定案、ひいてはジョンソン政権を信頼していない議員からの支持が集まる可能性がある。

この案の背景には、とりあえずベン法の発動を回避するために協定案が可決された後、その後の立法過程で何かがどうかして脱線し、10月31日に合意なし離脱となる危険性があるという考えがあるためだ。

BBCのローラ・クンスバーグ政治編集長は、下院がレトウィン案を可決した場合、政府は協定案の審議と投票を21日に延期する可能性があると話している。

(英語記事 Brexit: MPs set for knife-edge vote on Boris Johnson's deal/ Brexit: What to expect from Parliament's Saturday sitting