【台風19号】川崎大規模浸水の「なぜ」

多摩川(奥)と支流の平瀬川の合流地点。多摩川の増水で平瀬川の流れが遮られ、氾濫したとみられる=川崎市高津区

 台風19号による川崎市高津区と中原区の浸水被害は、発生メカニズムが明らかになってきた。高津区では支流の平瀬川の水が多摩川に流入せず行き場をなくしてあふれ、中原区の武蔵小杉周辺では多摩川の水が地中の排水管をつたって逆流した可能性がそれぞれ浮上。いずれも多摩川の大幅な水位上昇に起因する現象で、多摩川の氾濫を伴わない場合でも大規模な水害の危険性があることを示している。

◆平瀬川 バックウオーター現象か

 台風19号が上陸した12日夜、平瀬川が氾濫し、多摩川との合流点に近い高津区溝口一帯で浸水被害が相次いだ。1階部分が水没したマンションでは住人の男性1人が死亡した。

 マンション横の一戸建てに住む男性は、水位が増している平瀬川を見て身の危険を感じ、12日午後4時には避難した。別の男性は「午後9時ごろには平瀬川から住宅地に水があふれでていた」と証言する。

 市河川課によると、マンション周辺は平瀬川の堤防と江戸時代中期築造の「かすみ堤」と呼ばれる土手の間に挟まれている。過去にも雨水が排水しきれずにたまる内水氾濫が頻発。市はポンプ施設を整備し、雨水を平瀬川に流す対応を取ってきた。

 今回もポンプを稼働させたが、揚水先の平瀬川の水位はぐんぐん上昇。市河川課は「多摩川本流の水流が強く、支流の平瀬川の流れが壁にぶつかるようにせき止められた」と話し、一種のバックウオーター現象が起きて平瀬川が氾濫したと見ている。

 国土交通省京浜河川事務所も「多摩川上流域の山間部で記録的な雨量となり、多摩川の水位は長時間上昇した。そのため、平瀬川の水が行き場を失い、周辺にあふれたのは間違いない」と分析する。

◆武蔵小杉 地中排水管逆流の可能性

 多摩川からやや離れ、周囲に支流もない武蔵小杉駅周辺でも、街中に泥水があふれた。高層マンション1棟は電気設備が故障して停電や断水が長期化。JR横須賀線の同駅も自動改札機や電気系統が水没し、エスカレーターやエレベーターが使えない事態になった。

 川崎市側で多摩川が氾濫した形跡はなく、区内に住む女性は12日午後9時ごろ、自宅前のマンホールが外れて水があふれ出すのを見たと話す。「初めは普通の水だったが、次第に濁った水がどんどんあふれた。1メートル近い水柱だった」と振り返る。

 市下水道管路課によると、同駅周辺の雨水は地中に埋設された排水管を通り多摩川に排出。同区上丸子山王町の出口には水門が設置されている。平時の多摩川の水位は管の出口より低いが、今回は出口を上回ったために多摩川の水が排水管を逆流。街中にあるあちこちのマンホールからあふれ出たとみられる。

 当時、水門は閉められていなかったといい、市は「水門を閉めれば雨水が多摩川へ排出できず、街中にあふれる可能性もあった。多摩川の水位も刻々と変化し、タイムラグもある。判断は難しかった」としている。

© 株式会社神奈川新聞社