ホリエモンが斬る! “予防”というインセンティブなき「国民皆保険の欠陥」

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[田中圭太郎ITmedia]

 予防医療について啓発し、病気を予防する具体的なアクションを行なう一般社団法人予防医療普及協会の「予防医療オンラインサロン〜YOBO-LABO」会員限定トークイベントが、2019年8月22日に東京都港区のDMM本社で開催された。

 協会の理事を務めるホリエモンこと堀江貴文氏と、同じく理事で産婦人科医の三輪綾子氏が、糖尿病の専門医で医療スタートアップLinc’well代表取締役の金子和真氏をゲストに招いて、糖尿病の正しい理解と予防を広める方策を語り合った。

 前編の「ホリエモンが課題だらけの医療業界を斬る! 『大学の医学部で経営も教えるべき』」では、医療業界の問題点を指摘するとともに、一般の人が気づいていない糖尿病の怖さをレポートした。後編では堀江氏の国民皆保険への見解についてお届けするとともに、糖尿病予防につながるインセンティブの可能性を探る。

堀江貴文(ほりえ・たかふみ) 1972年福岡県八女市生まれ。実業家。SNS media&consultingファウンダーおよびロケット開発事業を手掛けるインターステラテクノロジズのファウンダー。現在は宇宙関連事業、作家活動のほか、人気アプリのプロデュースなどの活動を幅広く展開。19年5月4日にはインターステラテクノロジズ社のロケット「MOMO3号機」が民間では日本初となる宇宙空間到達に成功した。2015年より予防医療普及のための取り組みを開始し、2016年3月には「予防医療普及協会」の発起人となり、協会理事として活動。予防医療オンラインサロン「YOBO-LABO」にも携わる。著書に『健康の結論』(KADOKAWA)『むだ死にしない技術』(マガジンハウス)『ピロリ菌やばい』(ゴマブックス)など多数(以下、撮影:高原マサキ)。

金子和真(かねこ・かずま) 医師・医学博士。臨床医として東京大学医学部附属病院を中心に、医療現場で8年間働いた後、マッキンゼーに7年間勤務。医療現場の課題解決に向けて2018年にLinc’wellを創業。ITをフル活用した“次世代クリニック”ブランドの「クリニックフォア」をプロデュース。2018年10月に開業した東京・田町の第1号店舗は10カ月で3.1万人が来院。

三輪綾子(みわ・あやこ) 産婦人科医。2010年札幌医科大学卒業。順天堂大学産婦人科学講座に入局。産婦人科専門医、検診マンモグラフィ読影認定医。医療記事の監修なども行う。2017年より順天堂大学非常勤助手として勤務。

国民皆保険の欠陥は「予防する、インセンティブがないこと」

堀江: 後編では、糖尿病の予備軍、それも重症化する可能性がある人たちが、自発的に予防に動いてもらえるような方策を考えたいと思います。パチンコ店に行くかわりに、病院に行くような(笑)。

三輪: 治療することのインセンティブ付けは大切ですね。日本の医療は、病気になった状態で医療費が一番使われていて、予防に使われていません。これでは駄目だと思うので、そういう人たちを少しでも病院に引っ張ってこられるようにはできないものでしょうか。

 病院では手術する際、BMIが35を超える病的肥満患者は、麻酔をかけることがリスクになります。そのため麻酔管理料金が重症加算されます。つまり、多めに医療費が用意されています。その状態になる前の予防にお金を使ってほしいですね。

金子: いまの話は医療費のインセンティブという視点ですよね。それとは別に、予防しないことや治療を受けないことが本人にとってデメリットになる設計が、一番健全だと思います。現実的にできるかどうかは別にして、太っている人に対して、このまま放置して糖尿病になったら保険料の負担額を増やすという方法はあるかもしれませんね。

堀江: これは政府の役割でしょうか。

金子: 基本的には政府。あるいは、民間保険会社。

堀江: でもこういう人たちは、保険会社に加入していないですよね。

金子: そうですね。

堀江: 政府の役割から考えると、僕は最近、日本の国民皆保険は本当に駄目だなと思っています。素晴らしい制度だ、みたいなことを言いますけども、国民皆保険だからこそできないことがいっぱいあります。まさに予防に力を入れるインセンティブがないのは、国民皆保険のおそらく一番駄目なところでしょう。病気になったら、何でも安く治療してくれる制度ですから。

金子: おっしゃる通りですね。病気にならないために努力するというインセンティブがないですね。アメリカは国民皆保険ではありませんが、医療費が高すぎてなかなか病院にいけないので、病気にならないように努力します。そういうコントロールを自分でする概念が日本にはないですね。

堀江: だからこそ、国民皆保険の仕組みの中で、血糖値が高いのにずっとほったらかしにしていたら、保険料がどんどんあがるみたいな設計にすればいいと思いますね。

 

予備軍も含めると日本人の6人に1人が糖尿病だという(金子医師の提供資料より)

 

日本の健康保険組合の構成は複雑

堀江: ただ、日本の国民皆保険は一枚岩ではありません。国民健康保険があって、協会けんぽがあって、各業種ごとに健康保険組合があります。国が号令をかけても、みんなバラバラに対応しますよね。

 われわれも協会で、大腸がんの予防キャンペーンをやりました。大腸がんは日本でやっと最近減り始めたみたいですけど、韓国やアメリカは大腸がんの罹患率が劇的に減っています。その理由は、前癌(がん)病変というがんになる前の段階でポリープを切除するからです。

 ポリープを切除すれば、ほぼ大腸がんにならないことが分かっているので、アメリカでは大腸内視鏡を定期的に受けた場合、保険料を安くしています。がんになった場合に比べれば、明らかに保険金の支払いが減りますから、保険会社にとってはものすごいインセンティブですね。

 一方の韓国は、健康保険の制度が日本と違って一枚岩だそうです。だから国が号令を出したらみんな動きます。日本の場合は、それが全部複雑な構成になっていて、そこも問題だと思っています。

 

三輪: 日本の場合は、国が動いても変わらないということですか。

堀江: 国が動いても駄目。健康保険組合がたくさんあって、それぞれ経営状況が全然違うから。例えば協会けんぽはめちゃくちゃ赤字です。中小企業がたくさん集まった団体なので。それに組合員が高齢化して、どんどん病気になっています。その一方で、僕も入っていましたけども、関東ITソフトウェア健康保険組合はめちゃめちゃリッチなんですよ。

金子: あそこはすごいですよね。寿司(すし)屋の補助とかまでありますものね。

堀江: そうそう。赤坂に関東IT健保のビルがあって、健保組合員はそこの超おいしい寿司が安く食べられます。年に2回くらい、薬のセットも送られてきます。しかも保険料が安いです。

三輪: すごい。そんなメリットがあるんですか。

金子: 若い人しか加入していないですよね。

堀江: 平均年齢はたぶん30代だと思います。健康保険組合は業種によってこれだけ違いますから、ここをハックするのは困難です。予防した方がインセンティブが高まる設計にするのは、日本では非常に難しいと思っています。

 

「健康経営は儲(もう)かる」とアピールするべき

金子: インセンティブという面では、企業にもアプローチできるのではないでしょうか。最近、健康経営というのを経済産業省が旗を振って進めています。企業が従業員の健康をもっとよくすると、健康経営銘柄になるインセンティブがつきます。

堀江: 健康経営はアクサ生命が営業ツールに使っていますね。健康経営企業かどうかの認定を無料でやってくれるんですよ。

金子: コンサルティングみたいなことですか。

堀江: 認定コンサルを無料でやっています。おそらく、健康経営をすると、その会社の利益率は上がります。無料でコンサルをするかわりに、上がった利益分の一部で保険に入ってくださいという営業ですね。

 ただ、パンフレットとかを見ると、CSRとかSDGsみたいな綺麗(きれい)事しか書いていないんですよ。これでは経営者に刺さりません。格好をつけるのが好きな経営者にはそれで響くけれども、ほとんどの経営者はそうではなくて、会社が儲(もう)けたいと思っています。だから、会社は健康経営にしたら儲かりますということをもっと前面にアピールすべきです。

 

金子: そうですよね。結局、経営者というのは経営を考えているわけですから。

堀江: 会社がメンタルケアをきちんとすれば、うつ病にはなりにくくなります。社員が夜に深酒するのをやめて早起きするようになれば、朝から全快で仕事ができる、昼間の作業効率があがる、定時で帰れるなど、いろいろなプラスの面があります。

 実際に健康経営をしているほとんどの会社は、経営成績があがっています。でもそれを全然アピールしていません。おそらく儲けすぎだとか、お金に汚いとか言われたくないからでしょう。でもみんな儲けたいと思っているので、綺麗事じゃなくて、儲けたいと思っていることと結び付かないと。実際に健康経営は儲かるんですから。

金子: 生産性は上がりますよね。おそらくその取り組みで、健康保険組合に払っているコストも結構減っているはずです。その意味で経営をよくする効果もあるとは思います。

堀江: たぶん定量的なデータも出せると思いますよ。でも出していない。出しているものがあるのかもしれないけど、アピールしていないですね。

 

予防医療検定や健康経営を数値化する

堀江: 僕らはWebでテストをする予防医療検定というものを作っています。近い将来、こういうトークイベントの前に受けてもらうことも考えています。その企業版を作るのもいいかもしれないですね。予防医療検定企業版。

三輪: 健康に興味を持っていれば、受ける企業がありそうですよね。

堀江: 結構効くと思うんですよ。予防医療検定を企業単位で実施して、95%以上の人が検定3級以上に受かった企業を認定して、楯か何かを贈る。

金子: 数値化はいいですね。数値化されると頑張らないといけないと思い始めますから。

堀江: 僕のコンサル先で面白いことをやっている人たちがいます。恋愛四季報というのを出しているんですよ。

金子・三輪: 恋愛四季報(笑)。

 

堀江: 株式の四季報がありますよね。あれの恋愛偏差値版です。キーエンスとか、楽天とか、電通とか、そういう会社の名前が並んでいて、モテ偏差値で企業を格付けしていくという。

三輪: 一般女子からのモテ偏差値ということですか。

堀江: 女子も男子もです。

三輪: 面白い。

金子: 一般の人からの評価は大事ですね。

堀江: これは就職ビジネスに役に立つなと思っています。つまりみんな、恋愛偏差値の高い会社に入りたいですよね(笑)。恋愛偏差値の低い会社には入りたがらない。だから上げようと努力すると思いますよ。

三輪: 確かに評価の軸を作るのはいいかもしれない。

堀江: だから例えば、健康経営偏差値みたいなものを作るといいかもしれないですよ。

金子: 数値化されると、入社するときに選べるからいいですよね。企業にとっても、改善しなきゃいけないというインセンティブにつながる。

堀江: 作りますか。健康経営偏差値。

金子: 作りましょう。

堀江: 検定にもつなげて、会社を格付けする。ここの会社はAAAですみたいな。協会として勝手にそういうのを作ってみることで、企業単位で変えていけるかもしれないですね。

 

糖尿病予防に効果的なインセンティブは

堀江: 糖尿病予防に話を戻しますが、「糖尿病レストラン」とか作りますか。

三輪: 糖質制限をするレストランでしょうか。

堀江: いや、何かわかんないけど。

三輪: 病院に来たら、このお店は何%割引になるという感じですか。

堀江: 血糖値をこれだけ下げられたら、タダで食べられるとか。HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という指標があります。血糖値よりも長期的な、1カ月とかの平均値みたいなものに近いデータが取れるので、ごまかせない数値です。

三輪: 血糖値は直前の食事を抜けば下がりますが、HbA1cは前日の食事を抜いても変わらないですね。過去2カ月の平均血糖値を反映するような指標です。

金子: HbA1cを下げてもらうのは面白いですね。インセンティブをどう設計するかが鍵になると思いますが。

堀江: HbA1cを測って、糖尿病危険領域の方々だけが利用できるようにする(笑)。

三輪: 確かに、糖尿病の患者さんにポイントを絞るのはいいかもしれないですね。早めの段階で意識を変えてもらわないといけないので。

堀江: 1カ月の目標値があって、HbA1cの数値が7とか8とかの人が、正常範囲内ぐらいに下がったら、豪華な和牛フルコースをプレゼントするのはどうですか。

金子・三輪: (笑)

堀江: 赤身肉とかを中心に。脂質や糖質を考えても、牛ならできますよね。ご飯を入れなければいいんじゃないですか。

三輪: いいですね、確かに。

金子: ニンジンがぶらがっていないと、頑張れないですからね。

堀江: 誰かがこれをスポンサードしてくれるといいんですけどね。

三輪: どなたか、どうですかね(笑)。

堀江: ライザップはやれるかもね。

三輪: HbA1cがこれくらいの値の人は入会してくださいって。

金子: 食事と運動をセットで指導するのはいいかもしれないですね。

堀江: HbA1cが高い人は割り引くとかね。ライザップの入会費を割り引く。

三輪: (ライザップさんに確認せず、)勝手に話してますが大丈夫でしょうか(笑)。

堀江: そういうハックをしないと、糖尿病の予防は難しいと思うんですよ。

三輪: 徐々に変わってきて、自分でも気がつかないですからね。運動の習慣がないのは学校教育のせい?

堀江: 予防に関して言うと、運動やストレッチも、QOLをあげる上ですごく大事だと思っています。筋肉が落ちて足腰が弱くなると、動かなくなるので、認知症になりやすいじゃないですか。だけど運動の習慣がある人は結構少ないですよね。

三輪: 確かにそうですね。心が健康であるためには、体も健康じゃないといけないし、体を健康に保つためには心も健康じゃないといけない。堀江さんは定期的に運動していますよね。

 

運動を駄目にしている原因は学校教育

堀江: 僕は定期的に運動していますし、筋肉もつけています。ずっと座っていたとしても、ストレッチとか筋肉トレーニングをやっていると、腰痛になりにくくなるんですよ。そういうことも今後協会としてはやっていきたいなと思っていますけど、言うほどなかなか進まないですね。

金子: みなさん予防にお金を使うよりも、おいしいご飯を食べるとか、旅行に行くみたいなところに使いますよね。

堀江: でもね、運動を駄目にしている原因の一つは学校教育だと思うんですよ。学校教育の運動は、できない人にとってみると苦痛でしかない。100m走で20秒かかる人はやりたくないですよね。僕も小学校の頃とかは運動はそんなに好きじゃなかった。まわりと比較されたりするから。

金子: みんなで同じことをやるから、できない人が目立ちますしね。

堀江: そう。だけど武井壮さんは、僕を3カ月トレーニングさせたら、100m走を11秒台で走らせることができると言うわけですよ。100m11秒台だと、たぶん20歩くらいですが、一歩一歩全部形が違うらしいです。理想的に言うと、エネルギーを全て横方向に使いたいけれども、足を使って走るので上に余計なエネルギーを使っている。

三輪: なるほど。ぴょんぴょんはねているんですね。

堀江: それをできるだけ横方向のエネルギーに変えていくという姿勢が、スタートしてから最後の20歩まで、全部違うそうです。この姿勢と足の形を暗記すると話していました。

三輪: すごくやってみたくなりますね。教えてもらえないと、うまくならないですものね。

堀江: マンツーマンで、最先端というか、一番やりやすいような教え方をしてくれるとうまくなる度合いが違いますよね。

金子: それはそうですよね。できる人がやり方を教えてくれるわけですからね。

堀江: 僕は大人になってから割とスポーツをやるようになったんだけど、小学校の頃とかは、周りと比較されたりもして、そんなに運動は好きじゃなかったですね。いまはYouTubeもあります。YouTubeを見て覚えられる人は覚えちゃうので。僕の後輩とか、ゴルフが最近、飛躍的にうまくなって。前は全然僕の方がスコアも良かったのに、最近はよく負けるんですよ。「お前どうしたの? 何してるの?」って言ったら、「YouTubeで覚えました」って。

三輪: すごい。そんなにいい教材が、そこにあるわけですね。

堀江: オンライン教材って、ある程度自分で学べる人たち、偏差値50以上くらいの人は、動画教材のほうがいいんですよ。だって動画教材でページビューを取れる人たちって、一番教え方がうまいですよ。

金子: 確かに。それはそうですよね。

堀江: その辺のゴルフレッスンスクールのレッスンプロよりも全然うまいですよ。

三輪: 再生回数が評価につながっているわけですよね。

堀江: だから動画を見てできるんですよね。運動が苦手な人っていうか、運動をやらない人って、たぶん運動ができなかった自分へのトラウマがすごいと思うんですよ。でも大人になったら、別に多少運動ができなくても、バカにしたりしないじゃないですか。

三輪: 確かに小学校とかだと、「速く走る人がかっこいい」みたいな指標ができてしまっていますものね。それとはまた別に、「大人になってからの運動の仕方」というのを考えてもいいかもしれないですね。

堀江: そうなんですよ。そういうところもハックする必要があるのかなと思います。

金子: 運動の教え方ですね。

堀江: 教え方もそうですし、いま運動していない人が運動するインセンティブをつける。その人に刺さる何かが絶対にあると思うんですよ。それはゴルフなのかもしれないし、山登りかもしれないし、走ることかもしれない。でも何か一つでもその人に刺さればいいと思っていて。

三輪: そういう経験をする場は大人になればなるほど減っていきますよね。

 

意識が高くない人をいかにして変えていくのか

堀江: あとは、ここもオンラインサロンじゃないですか。予防医療という切り口でこれだけの人たちが集まれる場所っていうのが、バーチャルでできました。運動でもできると思うんですよ。僕はそういう場をもっともっと作っていこうと思っています。金子さん、糖尿病の予防について、最後に訴えておきたいことはありますか。

金子: 糖尿病は医療費の負担が大きくなる原因の一つですので、予防はとても大事です。予防医療普及協会さんにはぜひ積極的に取り組んでもらいたいと思いますし、私も何かできることがあれば、お力になれればと思います。意識が高くない人に、いかに糖尿病の怖さを認知してもらえるかだと思います。

堀江: 意識高い系の人は、あまり心配はいらないですね。意識が高くない人を、どうやってハックして変えていくのかを、これからも考えていきます。

金子医師が目指す「スマートクリニック」(金子医師の提供資料より)

 

著者プロフィール

田中圭太郎(たなか けいたろう)

1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/

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