心のパスを

 8年前のこと、準々決勝を前にして、選手全員でビデオを見たという。東日本大震災が起きて4カ月後、サッカーの女子ワールドカップ(W杯)で初優勝した日本代表「なでしこジャパン」にエピソードが残る▲対戦相手の試合運びを分析したビデオではない。大震災の映像で、被災地で踏ん張る人々の姿が選手を力づけた。そうして臨んだピッチで全力プレーを見せた選手らもまた、被災した人々を力づけたに違いない▲選手たちは日本女子サッカー界を背負って試合に臨みながら、言葉にならないほど厳しい現実に直面する人々と、互いに力を与え合ったのだろう▲ビデオを見るまでもなく、「被災」は現在進行形で、胸のふさがるような現地の様子が刻々と伝わってくる。洪水、土砂災害と、先の台風19号は東日本にすさまじい被害を与え、影響は計り知れない。そうした中、ラグビーのW杯で日本はきょう、準々決勝で南アフリカと対戦する▲初の8強入りに列島は沸いた。きょうも日本ラグビー史に刻まれる戦いとなるに違いないが、災禍に覆われた中での大舞台としてもまた、人々の記憶に刻まれるだろう▲この災禍が、選手らの胸の内にないはずはない。選手らは闘志をさらにみなぎらせ、その闘志が人々を力づける。きれいな心のパスが行き交うといい。(徹)

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