政治力 うごめく有力者たち 長崎IRの行方 佐世保誘致への課題・5(完)

傍聴席から怒号が飛び交う中、IR誘致の予算案を可決する横浜市議会=市議会議場

 9月20日、横浜市議会は異様な雰囲気に包まれていた。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致を進める補正予算案の討論では、登壇した9議員のうち7議員が「地域の理解が得られていない」と反対。それでも過半数を占める自公2会派は押し通すように可決した。「市民の声を聞け!」。満席の傍聴席からは怒号が飛び交った。
 8月に誘致を表明した横浜市は、横浜港・山下埠頭(ふとう)を候補地とする。横浜港運協会をまとめ、「ハマのドン」と呼ばれる藤木幸夫会長もギャンブル依存症などを懸念して猛反対する。
 合意形成には大きな壁が立ちはだかっているように見える。しかし「サイレントマジョリティー(物言わぬ大衆)の存在が知られていない」と、ある市議は言う。横浜市は市議経験もある菅義偉官房長官のお膝元。長年にわたり政治行動をともにするこの市議は、「(菅氏は)表に出ないがIRに強い関心を持っている。市長らとやりとりしながら動いている」と明かす。地元の経済関係者も「港運協会が横浜のすべてではない」と気に留めない。
 ほかの自治体も着々と準備を進める。2025年の大阪・関西万博に合わせた開業を目指す大阪府・市は、日本維新の会代表、松井一郎市長らが先頭に立ってけん引する。憲法改正を悲願とする安倍政権にとって、維新との連携は重要。政府の基本方針案では、IRの一部早期開業を認めた。「万博に間に合うよう配慮したのではないか」と見る向きもある。長崎県と同じく「地方型IR」を掲げる和歌山県には自民の二階俊博幹事長がいる。
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 “全国区”の政治家が居並ぶライバルと比べ、長崎県の国会議員や首長の知名度は高くない。ただ、長崎IRに関心を寄せる事業者と有力者とのパイプをうかがわせる事実もある。
 県内にオフィスを開設したある事業者の元には、二階氏の名前が記された祝いの花が届いた。別の事業者が6月に開いたイベントには当時の環境相らが出席。それぞれの事業者の背後には海外の巨大資本や投資家の姿も見え隠れする。
 各自治体は、来年にも施設の建設と運営を手掛ける事業者を公募・選定する。国は各自治体から申請された計画を審査し、最大3カ所を決める。
 激化する誘致競争の裏で、有力者がうごめき始めている。人口減少にあえぐ長崎県にとって、経済活性化の起爆剤となる誘致の成否は「地域の浮沈がかかっている」と佐世保市議会の重鎮は言う。そして勝機をこう語る。
 「横浜と大阪は強い。しかし金メダルや銀メダルを狙うレースではない」

 =おわり=

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