「母」になった祖母 “息子”を守る最善の形 【連載】家族のかたち 里親家庭の今(2)

写真はイメージ

 「娘を育てていた時の感覚を取り戻しています。かわいくてしょうがありませんよ」。この春から県内で、「親子」として孫と暮らす親族里親の千恵さん=50代、仮名=。2歳の「息子」に目いっぱいの愛情を注いでいる。
 彼の実母は千恵さんの娘。関西に住んでいる。18歳で出産したが、将来を約束していた彼氏に逃げられ、育児への意欲を喪失。子どもへ関心を示さなくなった。
 近年、子どもが親から虐待を受けて死亡する痛ましい事件が全国各地で起きている。千恵さんは悲しいニュースを見るたび、娘に置き換え、考える。「無理やりにでも育てさせようとすれば虐待に向かうかもしれない。孫を守るための最善の形とは何だろうか」
 息子を迎え入れて半年あまり。たまに電話をしても、娘から子どものことを聞いてくることはない。「おもちゃでも買ってあげたら?」と水を向けても「嫌や」とそっけない返答。千恵さんは娘の真意を測りかねるが「きっと断腸の思いもあったはず。私が面倒を見ていることで少しほっとしている部分もあるんじゃないかな」。
 息子には「かあちゃん」と呼ばせている。娘の存在を隠すつもりはなく、写真を見せて「こっちはママ」と教えている。まだ理解はできていないだろうが、これから成長していく中で、娘の存在を否定してほしくない、そんな思いからだ。息子は今、写真の中の「ママ」を「ねーね」と呼ぶ。
 当時、出産に反対していた千恵さんの両親も、今は育児に協力してくれる。「この子が『生まれてきてよかった』と思えるような家庭を築いていきたい。いろいろな考え方があるけれど、この子が幸せになるためには今の形が最善だと信じている」。千恵さんは母親として育てていく覚悟を口にする。
 そして、娘に対する思いも吐露した。「これから長い人生がある。この子の幸せを第一に考えながら彼女自身もしっかりと生きてほしい」。母親として、娘の幸せも心から願っている。


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