『108~海馬五郎の復讐と冒険~』唯一無二の松尾スズキ・ワールド

(c)2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会

 大人計画を率いる松尾スズキの長編では4本目となる監督作。オリジナル脚本の今回、初めて主演を兼ねている。演じるのは、愛する妻がSNSに投稿した浮気の告白に「いいね!」された数と同じ108人の女を抱いて復讐するという無謀な計画に挑む人気脚本家で、コメディー俳優としての彼の魅力も大いに堪能できる。作風こそ違えど、ウディ・アレンのように唯一無二のワールドを築いてみせた。

 当然ながらSEXシーンが満載で、いわゆる18禁なのだが、全くエロくない。人間は一生懸命であればあるほどはたから見たら滑稽というコメディーの常套手段を用いて、主人公の涙ぐましい努力を笑いに転じさせているのだから、スラップスティックな笑いも含めて全て計算ずく。だから、笑いが単純な笑いで終わらずに、哀感が宿る。しかもそれらが、劇中ミュージカルの巧妙な使い方や膣痙攣で合体したまま行動を余儀なくされ…、クライマックスの“女体の海”まで常に視覚に訴え掛ける笑いになっているのだ。

 編集にも松尾の意識が行き渡り、あくまでも映画ならではの表現に終始する。こと映画という表現媒体に限れば、その笑いのセンスやスキルは、もはや三谷幸喜もクドカンも相手にならないレベルで、“映画の本質”をつかんだかに思える。松尾スズキは、ついに殻を破ってみせたのだ。映画監督としての代表作の誕生を祝したい。★★★★★

監督・脚本・主演:松尾スズキ

出演:中山美穂

10月25日(金)から全国公開

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