読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、深く考えずに加入したドル建て終身保険の為替リスクに不安を感じているという26歳の女性。また貯蓄が増えてきたため、がん保険の特約を解約したいといいますが……。マネーフォワードから生まれたお金の相談窓口『mirai talk』のFP秋山芳生氏がお答えします。
2年前にFPさんの勧めでドル建の積立利率変動型終身保険に加入したのですが、ニュースなどで為替リスクなどについて報道されているのを見て、このまま払い続けてよいのか不安になっています。
老後資金作りの目的で、年払いで1656ドル(支出では保険料として月1.5万円で計上)支払うと、あくまで想定ですが65歳の時に元手の122%以上受け取れるとのことで、あまり深く考えずに加入しました。為替リスクは、実際にどんな影響があるのでしょうか。
また月1665円のがん保険に加入しているのですが、加入時よりも貯金が増えたので、がん診断特約(1回につき50万円)を外そうかと考えています。特約はあとから付け直すことができないということなのですが、無解約払戻金型終身ガン治療保険、放射線治療給付金および抗がん剤・ホルモン剤治療給付金として月15万円という内容であれば、特約がなくても充分でしょうか。
<相談者プロフィール>
・女性、26歳、未婚
・職業:公務員
・居住形態:賃貸(一人暮らし)
・毎月の世帯の手取り金額:19万円
・年間の手取りボーナス額:79万円
・毎月の世帯の支出目安:15万円
【支出の内訳】
・住居費:5万円
・食費:3万円
・水道光熱費:1万円
・教育費:0.5万円
・保険料:1.6万円
・通信費:0.5万円
・車両費:なし
・お小遣い:3万円
【現在の資産状況】
・毎月の貯蓄額:4万円
・現在の貯蓄総額:611万円
・現在の投資総額:14.7万円(つみたてNISA)、iDeCo加入手続き中
・現在の負債総額:なし
秋山:ご相談ありがとうございます。ファイナンシャルプランナーの秋山です。2年前にFPに相談して、「ドル建の積立利率変動型終身保険」と「がん保険」に加入されたのですね。
目的は、「老後」にむけた資産形成と、「がん」になってしまったときの治療費ということですね。
それぞれの目的を達成する上では、保険が最適ではないこともあります。
保険は、万が一のときの備えとして重要なもですが、基本的には「入れば入るだけ損をする」ことになります。現金などで十分な備えがあれば必要ないと思います。
FPを名乗っていても、その実は高額な保険販売で生計を立てている人もいるので注意してくださいね。
目的を明確にして、必要のない保険は解約を
老後の資産形成が目的であれば、投資信託を活用した長期運用のほうが利回りを考えても有利になります。
また日本医療政策機構・市民医療協議会がん政策情報センターの「がん患者意識調査2010年」によると、がんの治療費には平均で年間115万円ほどかかっている方が多いようです。
貯金611万円の用途が余剰資金としてあるのであれば、この中から「医療用」として100万~200万円ほど分けておければ、がん保険は解約しても良いかもしれません。支払っている保険料を貯蓄していくことで、備えとしてもさらに充足していくと思います。
上記を前提に考えれば良いと思いますが、仮にいまある貯蓄が、家の購入資金や結婚資金など、すでに用途が決まっている場合、それぞれの保険が必要かについて考えていきたいと思います。
ドル建の積立利率変動型終身保険とは?しっかり考える
ご加入されているドル建の積立利率変動型終身保険は、毎月1.5万円を24歳から積立てて、40年後の65歳になるときに122%増えていると考えると、以下のようになります。
元本:1.5万円×12ヵ月×40年=720万円、122%増えた場合:約878万円
ゼロ金利時代ですから、銀行貯金に入れているよりは有利ということで、外貨建ての積立利率変動型終身保険を選ばれる方がいらっしゃいます。
この保険を勧める営業マンの営業トークは、「金利0.01%の銀行預金に預けていても増えないので、“積立利率3%や5%が期待できる”ドル建の積立利率変動型終身保険に入りませんか?」というものです。
この「積立利率」について、銀行の金利と同じように捉えている方も多いのですが、支払っている保険料の一部が運用にまわっているということなので、積立利率は実際の保険料をベースにした金利とはまったく別物となりますので注意が必要です。
40年間積立てた元本が122%増える場合、平均利回りでみると実態は0.9%くらいで運用されていることになります。加入の際に想定していた利回りと比べてみてはいかがでしょうか?
また、ドル建の積立利率変動型終身保険のデメリットを考えると、途中解約すると解約返戻金が元本割れしてしまうことや、長期間お金が使えなくなり流動性が悪いということがあります。
さらに、40年という長期で運用に回した場合の資産増加の期待値と比べて、圧倒的に増加額が小さく、機会損失になる可能性があるのです。
老後の資産形成を考えるなら、圧倒的にiDeCoが有利
老後の資産形成を考えるのであれば、手続き中のiDeCo(個人型確定拠出年金)の方が、掛け金が全額所得控除の対象になり有利です。
1.5万円を仮に積立てた場合は、年間18万円が全額所得控除になります。仮に額面年収320万円の独身の方で26歳会社員の場合、1年間で2.7万円ほどの節税になります。
来年からiDeCoを始められた場合、60歳までの33年間控除となり、職業や年収などの諸条件が変わらなかった場合は、2.7万円×33年=89.1万円、節税効果が期待できます。
また、期待値3%の複利運用がでできた場合は、元本594万円に対して、417万円利益が期待できます。
仮に、iDeCoを来年から始めて60歳まで利回り3%で運用できたとした場合、ドル建の積立利率変動型終身保険(65歳まで積立、122%増加)と比べると、iDeCoの方が積立期間も短く、以下のとおり利益も圧倒的に大きいことがわかります。
iDeCoを60歳まで利回り3%で運用できた場合の利益:
417万円(期待利益)+89.1万円(節税分)=506.1万円
ドル建の積立利率変動型終身保険による利益:
720万円(65歳まで積立てた元本)-878万円(122%増加分)=158万円
この差が機会損失ということになります。
元本割れをしても解約をすすめる理由
そしてご懸念の為替リスクについてですが、確かに外貨建ての金融商品を持つ場合は、円高に振れた場合に損失が出ることがあります。
そもそも、増え方が小さいドル建の積立利率変動型終身保険は、仮に運用で利益がでても為替が円高に振れていると利益が少なくなったり、場合によっては損失が出ることがあります。
また、仮にご相談者様に万が一のことがあった場合でも、ご自身の身辺整理用のお金は十分にあることからも死亡保険金は必要ないのではと思います。
いま、積立利率変動型終身保険を解約すると、解約返戻金が少なく元本割れをしてしまうかと思いますが、今後の機会損失の差が大きくなることを考えると解約をおすすめします。
がん保険は「未来のリスク」について考える
がん保険についてですが、「無解約払戻金型終身ガン治療保険」「放射線治療給付金および抗がん剤」「ホルモン剤治療給付金」として月に15万円と、がん診断の一時金50万円がおりる保険に入っているのですね。
がんは、女性の47%が生涯の中で罹患する可能性があると言われ、死亡原因の1位といわれています。(※1)日本人の約半数ががんになると言われていますので、がん保険自体は確率的にも損をするものではないと思います。(※1:国立がん研究センター2014年全国推計値データより)
がんになった場合、高額療養費がある日本では、医療費自体はそれほどお大きな金額にならなくても、ベット代や交通費など医療費以外にかかるかコストや、保険適用外の治療にかかるコストがあります。さらに、働いている最中にがんと診断された場合に働き方を制限しなければならず、収入が減ることなども考えられます。
また、がんは年齢を追うごとに罹患率が高まる傾向にあります。現時点では金銭的に対応できても、仮に貯蓄を切り崩しながら暮らす老後にがんになった場合を考えると、大きな支出になる可能性があるでしょう。
ですので、「今のためにガン保険に入る」ではなく、「リスクが高まる時に備えて、今から入る」という感覚で良いと思います。
一方、10年20年30年先を考えると、がんの治療方法は医療の発展によって変わっていく可能性があります。
現在の保険は、保険金の支払いが「放射線治療」や「抗がん剤・ホルモン剤」などの治療方法に限定されていると思います。しかし今後、医療の進化によって、どのような治療方法がスタンダードになるかわかりませんので、逆にがんと診断されたら一時金を受け取れるがん保険を中心に検討されてはいかがでしょうか?
がんと診断された場合に一時金がおりれば、治療方法を限定することなく選択肢が広がると思います。
今しかできない自己投資にもお金をかけて
また家計を拝見いたしますと、特に無駄遣いが多い家計には見えませんし、良くコントロールなされていると思います。
26歳で600万円を超える資産を作られていることは大変ご立派と思いますが、一方、お金は使うものでもあります。
老後対策の資産形成はしながらも、自分という資産を最大化していくための自己投資や、若いうちにしかできないことにもお金をかけて取り組んでいただければとも思います。
以上、ご参考になれば幸いです。