路上生活者の声を聞き10年 困窮者に「終わりない」伴走 長崎ホームレスを支援する会

 10月上旬の木曜日。時計の針が午後9時を回ったころ、「長崎ホームレスを支援する会」の事務局長、井手雄一さん(65)は長崎市内にある橋の下にいた。街灯の明かりが少しだけ差し込む薄暗い場所。70代の男性が毛布にくるまって寝そべっていた。男性は自らの意思で10年以上、この場所で生活を続けている。

路上で生活する男性に声を掛けるメンバー。10年間、寄り添い続けている=長崎市内

 井手さんは男性のそばにしゃがみ込み、手作り弁当を渡し、声を掛けた。「体調はどうですか」。男性が横になったまま、ゆっくりとした口調で答える。「そんなよくなかよ。体力も落ちてきてるしね」。辺りには季節外れの蚊取り線香のにおいが漂っていた。
 男性はラジオを片時も離さず、昼間は新聞を読める場所で過ごすことも多い。だから会話の中に出てくる情報は新しい。相撲の話から国際情勢、台風の進路まで。「最近は暴力の話ばっかりやね」。2人の小さな声が橋の下で反響した。
 10分ほど話し込み、井手さんは「困ったことがあったら言ってくださいね」と声を掛け、立ち上がった。「大丈夫、何とかなるさ」。男性はそう話し、毛布をかぶり直した。
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 失業や病気などを理由に経済的に困窮し、生活が困難な人たちに寄り添う「長崎ホームレスを支援する会」が今年、設立10年を迎えた。同会によると、設立当時よりも路上生活者は減ったが、支援の対象者は増え続けている。同会の活動を取材した。

 ◎弁当、生活保護手続き、アパート探し…「力を貸して」訴え

 生活困窮者を支える「長崎ホームレスを支援する会」のメンバーは毎週木曜の夜、支援対象者に手作り弁当を配っている。10月上旬、午後9時半ごろにメンバーが人通りの少なくなった市中心部に到着。繁華街のいつもの場所には、受け取りに十数人が待っていた。
 井手義美会長(78)らが名簿をチェックしながら笑顔で弁当を手渡していく。会話をする人もいれば、お礼を言ってすぐに立ち去る人もいる。6年ほど前から、ほぼ欠かさず弁当を受け取りに来ているという男性(73)は「会の人たちは100パーセント信頼できて何でも話せる。精神面で本当に助けられている」と感謝を口にした。

弁当を受け取りに来た男性と会話する井手会長(中央)=長崎市内

 井手会長は「弁当は一つのきっかけにすぎない。彼らと言葉を交わし続けることが大事」と続けてきた理由を明かした。
 同会は、世界同時不況に陥ったリーマン・ショックの翌年2009年に設立。これまでに100人以上を支えてきた。
 設立当時、職も家も失って路上で生活する、いわゆる「ホームレス」と呼ばれる人たちは、同会が把握しているだけで長崎市内に十数人、点在していた。メンバーは路上や公園でホームレスを見つけては声を掛け、たとえ無視されても、長い時間をかけて信頼関係を築いてきた。生活保護の申請手続きからアパート探しを手伝い、自立支援施設にもつなぐ。活動費は個人や団体からの寄付で賄っている。
 国の自立支援に関する施策などもあり、10年たった今、町中でホームレスはほとんど見かけない。厚生労働省の今年1月の調査では、長崎県内のホームレスは長崎市の2人。ただ、井手会長によると、家はあっても相談相手がおらず、社会的に孤立する生活困窮者は増加。支援の対象者は10年前の十数人から約30人になった。「その人たちも広義の意味でホームレス。支援が必要」と指摘する。近年は市役所などからの情報で支援につながる形が増え、インターネットを通じて県外からの相談もある。
 井手会長は相談用のスマートフォンを、365日24時間、手放さない。「ホームレスになったのは自己責任という声もある。でも社会情勢など自己責任で片づけられない理由もある。路上から家につなげて終わりではない。(精神面を中心に)支援に終わりはない」と“伴走”を続ける。
 支援対象者が増える一方、同会メンバーの高齢化も進み、活動の担い手不足という課題にも直面している。当初、40人近くいたメンバーは半分以下となり、継続して活動に参加できるのは6、7人程度。対象者には精神的な障害を抱えている人も少なくなく、医療面での支援も十分ではないという。
 井手会長は「できる限りのことを続けていく。少しでも関心のある人は自分にできること、やれることでいいので力を貸してほしい」と訴える。
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 長崎ホームレスを支援する会は26日午後2時~4時半、長崎市平野町の市平和会館ホールで10周年記念事業を開催。ホームレス支援全国ネットワーク理事長の奥田知志氏の講演などがある。入場無料。同会事務局(電080.2714.8574)。

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