セブンとイオン、6~8月期の増益決算は本当に“好調の証し”なのか

9月下旬から10月半ばにかけて、小売り企業を中心に6~8月期の決算発表が行われました。小売り企業の多くは2月期決算を採用しており、6~8月期は1年のちょうど折り返しに当たります。

そこで今回は、小売り企業全般の業績動向に加えて、小売り銘柄の中でも特に注目度の高いセブン&アイホールディングス(証券コード:3382)とイオン(8267)の注目ポイントについてご紹介します。


小売業界全体では堅調だが…

まずは小売り企業全般の決算動向を振り返ってみます。9月から10月半ばにかけて決算発表を行い、前年同期と業績の比較が可能な小売業に属する129社について業績の集計を行いました。結果は下表の通り、増収増益を達成しており、全体として堅調な決算だったと評価できそうです。

ただ、やや割り引いて考える必要があるのが、今回の決算は消費増税前の駆け込み需要が含まれているという点でしょう。家電量販店のビックカメラ(3048)が子会社のコジマ(7513)の決算説明資料の中で、駆け込み需要について前回増税時との比較を紹介しています。

この資料からすると、今回もテレビや冷蔵庫、洗濯機など高額の家電類について明らかに駆け込み需要が発生しています。ただ全体的には、前回増税時と比較すると、駆け込み需要はやや少なめのようです。

もちろん、一企業の販売状況が日本全体の消費動向を表していると言うことはできませんが、各新聞社が公表した調査結果などからすると、前回増税時に比べると駆け込み需要はやや少なめのように感じます。今後発表される経済指標の結果を待ちたいと思います。

本業の儲けではセブンに軍配

続いて、小売企業の中でも特に注目度の高い、セブン&アイホールディングスとイオンの決算結果を分析してみます。両社の6~8月期の決算のヘッドラインは、以下の表のようになっています。

セブン&アイは昨年の同時期と比べて減収増益、イオンは増収増益です。まず注目したいのが、両社の営業利益率の差です。

営業利益率とは売上高に占める営業利益の割合のことで、これは当然、高ければ高いほど良いものです。この営業利益率でセブン&アイが6.7%あるのに対して、イオンは2.7%しかありません。

そもそも売上高にあたる営業収益はイオンのほうが多いのに、本業の儲けを示す営業利益はセブン&アイが2倍以上稼いでいます。稼ぐ力という観点では、セブン&アイのほうが圧倒的に上ということになります。

セブンとイオンを分けた要因

この大きな違いはどこから出ているのでしょうか。「セグメント業績」という事業ごとの業績をチェックすると、その答えが見えてきます。下表は、セブン&アイのセグメント業績(利益)です。

表を見ると、セブン&アイは「国内コンビニエンスストア」と「海外コンビニエンスストア」が稼ぎ頭で、2つのセグメントで全体の利益の約9割をたたき出しています。特に国内コンビニエンスストアは、売上高に対する利益率が約30%ある超高収益事業です。コンビニ事業以外では「セブン銀行」などを展開している金融事業が第3の稼ぎ頭となっています。

ちなみに「スーパーストア」はイトーヨカドーやヨークベニマル、「百貨店」はそごう・西武などです。これらはほとんど儲かっていない、またはセグメント赤字となっています。

続いて、イオンのセグメント業績を見てみましょう。同社の稼ぎ頭は、なんとイオン銀行などが属する「総合金融」です。続いてイオンモールの開発を手掛けている「ディベロッパー」となっています。

イオンといえば当然、巨大スーパーの「イオン」が思い浮かびますが、実は「総合スーパー(GMS)」事業はセグメント赤字で、さらに1年前よりも赤字が拡大しています。また、コンビニエンスストアのミニストップや小規模スーパーのマックスバリュが属する「スーパーマーケット」事業も、黒字は出ているものの前年から利益が半減している厳しい状況です。ちなみにミニストップだけで見ると、営業赤字を計上しています。

セブンも順風満帆ではない?

このように、セブン&アイで莫大な利益を稼いでいるコンビニ事業がイオンでは赤字となっており、セブン&アイのコンビニ事業に匹敵する稼げる事業をイオンが持っていないことが両社の稼ぐ力を分けている最大の理由だといえます。

両社とも金融事業でしっかりと稼いでおり、さらにイオンはドラッグストアのウエルシアホールディングスが属する「ヘルス&ウエルネス」の業績も非常に好調です。しかし、それだけでは本業の不調を補うに至っていません。

ただし、セブン&アイの国内コンビニ事業も、実は順風満帆というわけではありません。近年は売り上げの伸びが明らかに鈍化しているのに加えて、営業時間などをめぐって会社とFCオーナーの対立が一部社会問題化するなど、解決すべき課題を多く抱えています。

このように見ていくと、セブン&アイもイオンも本業の小売り事業の立て直しが課題となっていることがわかります。どちらも一朝一夕で解決できる問題ではなさそう。今後は両社の経営改革の真価が試される局面といえそうです。

<文:マーケット・アナリスト 益嶋裕>

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