10年先の雲仙温泉街描く 事業者や行政 観光地再興へ連携強化

観光復興を目指して発足した雲仙市観光戦略策定委の初会合=雲仙市、雲仙やまびこ会館

 長崎県雲仙市の雲仙温泉街を核とした市観光戦略の策定が、本年度から始まった。温泉街の旅館業者や各商店などの事業者、行政機関が連携して、今後3年間で観光地再興に向けた戦略を練り上げていく。10年先の温泉街の未来像を描く取り組みの課題や展望を探る。

 「インターネットで雲仙市の画像を検索してみてください。そこに答えがある」。9月27日、策定委の初会合に先立ち、JTB総合研究所コンサルティング事業部交流戦略部長の山下真輝氏が講演。青い海が象徴的な沖縄、星空のまちとして成功した長野県阿智村を例に挙げ、山下氏は「観光客にどんな印象を与えたいか、狙いをしっかり定める必要がある」と強調。「雲仙市」の検索結果には、無機質な地図の画像がずらりと並んでいた。
 山あり海あり温泉あり-と、多彩な魅力を打ち出してきたはずの雲仙市。だが、昨年の観光客数は延べ約285万2千人で4年連続の減少。観光消費額の落ち込みも歯止めがかからず、3年前と比べ100億円減少して約188億円。関係者は「緊急事態」と危機感をにじませる。
 復活には雲仙温泉の集客強化が不可欠と考え、観光戦略では同温泉街を中核に据える。策定委のメンバーには同温泉観光協会や旅館ホテル組合のほか、環境省や県関係者、民間事業者も名を連ねた。
 同温泉街では8年前、同様の地域振興策を策定した経緯がある。国立公園指定から100年を迎える2034年に向けた中長期的な行動計画「雲仙プラン100」だ。「つながる」を基本理念に掲げ、アクティビティーの充実、景観の改善などに取り組んできた。ただ、策定から8年が経過し、実行できていない項目も多い。新たな戦略策定には、これらを精査し、てこ入れする狙いもある。
 今回の観光戦略では、10年先を見据えた施策、事業を柱にする。21年度までの3カ年で策定し、「島原半島をけん引する雲仙温泉」の足掛かりをつくる方針。プラン100をベースに▽グランドデザインの検討▽インバウンド対策の強化▽人手不足など緊急課題への対応-などを詰めていく。
 事務局を担うJTBは、旅館や商店など約50事業者への実態調査を実施。地元客と観光客の割合や外国語への対応、クレジットカード利用の可否、地元食材の使用割合のほか、従業員教育などについて細かく分析を進める。担当者は「まずは現状把握。受け入れ態勢の課題を洗い出すことが大切」と話す。
 一方で、観光振興強化を目指した島原半島内の観光団体一本化の議論は、ここ数年停滞したまま。お隣の小浜温泉街との共同も課題の一つだ。ある旅館関係者は「雲仙温泉が半島の中心として抜きんでるしかない。求心力を高めて、周りを取り囲んでいくことが近道」と本音をこぼす。
 同温泉街では、中心地広場の再開発や地獄エリアの景観整備といった国の予算などを活用した工事も予定されている。金澤秀三郎市長は「数十年に一度のチャンス。あふれる素材を活用して、ここにしかない本物の稼ぐ観光地になってほしい」と期待を寄せる。
 初会合では、宮崎高一・同温泉観光協会長を委員長に選出。11月に第2回会議が予定され、協議が本格的に動きだす。宮崎委員長は「雲仙は大きな転換期を迎えた。危機感を共有し、多種多様な業種で意見を交わしながら、よりよい未来のために一致団結していく」と力を込めた。

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