「無期懲役でも十数年で仮釈放」はうそ 17年は平均33年2カ月、元名古屋大女子学生が服役へ

By 竹田昌弘

 「あなたの障害や犯行当時の年齢を考えると、有期刑の上限である懲役30年に近い無期懲役です。被害者のことを考えて罪を償い、必ず社会復帰できると信じて努力してほしい」 

 名古屋大在学中の2014年、宗教の勧誘に訪れた女性を殺害し、高校時代には仙台市で同級生ら2人に劇物の硫酸タリウムを飲ませたとして、殺人や殺人未遂などの罪に問われた元女子学生(24)は17年3月24日、名古屋地裁で判決を言い渡された後、山田耕司裁判長からこんな言葉を掛けられた。 

 目元までかかる長い前髪と白いマスクで、元学生の表情はうかがえなかったが、山田裁判長の「よろしいですか」という問い掛けには「はい」とはっきりとした声で答えた。裁判員裁判の地裁判決は名古屋高裁に続き、最高裁でも支持され、10月22日付で元学生の無期懲役が確定した。 

元女子学生判決公判の傍聴券を求めて並ぶ人たち=2017年3月24日、名古屋地裁

 無期懲役は、仮釈放されなければ死ぬまで刑務所で労働を強制される刑だ。仮釈放されても恩赦にならない限り、生涯にわたって保護観察下に置かれる。仮釈放には、①悔悟の情と改善更生の意欲がある、②再犯の恐れがない、③社会の感情が仮釈放を認める―などの条件があり、③の判断では、被害者側の意見も聴くので、ハードルは高い。 

 法務省によると、17年末現在の無期懲役受刑者は1795人。同年に仮釈放された8人(仮釈放が取り消され、再度仮釈放された人を除く)の平均服役期間は33年2カ月だった。08~17年の10年間に仮釈放されたのは64人なのに対し、3倍を超える193人が獄死している。多くの受刑者にとって、無期懲役は事実上の「終身刑」となっているが、こうした現状はあまり知られておらず「十数年で仮釈放される」という伝説が根強くある。 

名古屋地裁判決の骨子

 元学生の場合、名古屋地裁が判決で「相応に長い期間にわたり現実の服役がなされた後であれば、被告が抱える障害の克服状況にも照らして、仮釈放の弾力的な運用により比較的早期の社会復帰が図られることが適切である」と求めているので、山田裁判長は「懲役30年に近い無期懲役」と語ったのだろう。 

 ただタリウム中毒により、視力障害が残る元同級生の男性は公判で「目標や夢を台無しにされた。一生刑務所に入って罪を償ってほしい」と証言したので、仮釈放に強く反対する可能性がある。 

 そもそも地裁判決が認定した殺害動機は「人を殺す体験をし、死にゆく様子を見たい」であり、元学生は取り調べ中に「(検察官を)殺したい」と言い、勾留中は「(拘置所の)職員を殺したい。弁護士でもいい」とノートに書いた。控訴審の被告人質問でも「1日に5~6回殺意が浮かぶ」「人を殺す夢を見る」と述べていた。地裁判決では「事件への影響は限定的」とされたものの、精神障害の治療が必要であり、まずは医療刑務所がいいかもしれない。(共同通信編集委員=竹田昌弘)

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