究極の鋼鉄美学、ジューダス・プリーストはヘヴィメタルの教科書! 1980年 4月14日 ジューダス・プリーストのアルバム「ブリティッシュ・スティール」が発売された日

ジューダス・プリーストのギタリスト、グレン・ティプトンが10月25日に72回目のバースデイを迎えた。グレンは昨年、自身がパーキンソン病と闘っていることを公表し、HM/HR ファンに大きな衝撃を与えた。

最新アルバム『ファイアーパワー』に伴うツアーにグレンは参加せずサポートを迎えたが、昨年末に行われた来日公演では、体調が許せば彼が数曲だけ参加する可能性があることを知り、僕はいてもたってもいられず、久々に彼らのライヴ会場に駆けつけた。幸運にも東京公演では、グレンの勇姿を目に焼きつけることができたが、観客の誰もがぐっと胸にこみ上げるものを感じたに違いない。病魔に打ち克って、音楽活動に復帰できる日がくることを心から祈るばかりだ。

さて、メタルシーンの頂点に君臨するジューダス・プリーストにとって、80年代は全盛期であると同時に、自身のヘヴィメタルを確立した特別な時代だ。僕が彼らを知ったきっかけは少々変わっていて、70年代末に買った『ROCK SHOW』というアイドル洋楽誌を通じてだった。ベイ・シティ・ローラーズ辺りが表紙を飾るような誌面だったので、ジューダス・プリーストもアイドル的なノリで扱っていたのは、今考えると面白い。ちょっと変わったバンド名だなぁ、くらいの印象だったけど、のちにラジオで曲を聴いて、想像とは違う激しい音楽とのギャップに驚いた記憶がある。

80年代に入り、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル(NWOBHM)の一大ムーブメントとともに、70年代からの中堅バンドとして存在を堅持していた彼らも、従来のドラマティックでハードな音楽性から、時代とともによりメタル色を強めていく。80年代が始まるや、その狼煙として世に送り出したのが『ブリティッシュ・スティール』だ。

当時、マスターテープが盗まれて10万ドルを払い取り戻した、というニュースを洋楽誌で知り、それほどまでに価値のあるアルバムなのか!と興味を持った覚えがある。困難を経て世に送り出された作品は、漆黒にカミソリが浮かぶシャープなデザインのジャケット、レザーとスタッズを身につけたメンバーのヴィジュアルイメージ、そして全編を埋め尽くすリフ、ムダを削ぎ落としたソリッドな音像と、まさに僕らが “ヘヴィメタル” と聞いて、頭に思い描く要素が凝縮されていた。

HM/HR ファンにとって説明不要の名曲がズラリと並ぶが、その中でも僕にとって特別な楽曲が、アルバムの最後を飾る「スティーラー」だ。実はこの曲こそが、ラジオを通じて、僕がリアルタイムで初めて聴いたジューダス・プリーストの楽曲だった。

小気味のよいアップテンポで押す典型的なプリースト流メタルチューン。そのハイライトは、アウトロでグレンと K・K・ダウニングが延々に繰り返し刻み続けるリフの波状攻撃にある。その長さは実に約80秒余り。数多あるメタルリフの中でも、特筆すべき長さとインパクトを放つ。爆音で聴くと、知らず知らずにヘッドバンギングを誘発されて、段々トリップしていくような感覚にさえ陥る。

シンプルなまでに徹底してリフを突き詰めた究極の鋼鉄美学。この曲を通じて、“リフこそが、メタルをメタルたらしめる本質である” という真理を、ジューダス・プリーストは僕に教えてくれたのだ。

アルバムの楽曲の多くが、のちにさまざまなバンド名として使われているのも興味深い。実は僕も自分のバンド名に “スティーラー” と名づけたことがある。そのときは日本のアンセムの曲名からヒントを得たのだが、のちにイングヴェイ・マルムスティーンが在籍したバンド名や、ドイツにも同名のバンドが存在するなど、次々と出てきて驚かされたものだ。

80年代以降の “ヘヴィメタルの教科書” を制定した彼らは、全米市場を狙う過程で、賛否両論を巻き起こした81年の『黄金のスペクトル(Point of Entry)』経て、82年に不朽の名作『復讐の叫び(Screaming for Vengeance)』を完成。メタル史上最高のオープニング「ヘリオン」「エレクトリック・アイ」を聴いて、“ヘヴィメタルとは何か?” の命題を学んだ HM/HR ファンも多いだろう。

このアルバムで遂に全米マーケット制圧に成功した彼らは、『USフェスティバル』にも出演。僕は地上波 TV で放映されたその模様や、『ベストヒットUSA』で当時のライヴを見て、観音開きのマーシャル、ハーレーダビットソンにまたがるメタル・ゴッドといった演出、立体的なステージセットやライティング、そしてメンバーが繰り出すアクションやコスチュームなど、“ヘヴィメタルのライヴとは何か?” の典型を、今度は映像を通じて目に焼きつけた。

さらに、徹頭徹尾のヘヴィメタルを完全昇華させた84年の充実作『背徳の掟(Defenders of the Faith)』で、“メタルをやり尽くした” 彼らは、未来のメタルを模索すべく、大胆にシンセギターを導入した86年の問題作『ターボ』で再び賛否を巻き起こす。88年の『ラム・イット・ダウン』では、ズバリ「ヘヴィメタル」というタイトルの楽曲を収録するなど原点回帰し、激動の80年代を締め括ったのだった。

『ブリティッシュ・スティール』の発売からちょうど30年後、2010年には『30th アニバーサリー・エディション』が発売され、完全再現のライヴも行われた。このアルバムが80年代以降のメタルを形づくるうえで重要な礎となり、シーンに多大な影響を与えたことが、長い時を経て、このタイミングで改めて認められたといえよう。

まもなく2020年、メタルミュージックはその形を進化させながらニュージェネレーションに脈々と受け継がれている。その核の部分には、必ず新たな “リフ” が生まれていく。そんな今に繋がるヘヴィメタルの基本形は、80年代の訪れとともに、ジューダス・プリーストが編み出したものに他ならない。その事実の凄みに改めて敬服するばかりだ。

カタリベ: 中塚一晶

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