五輪閉幕の日

 きのう長崎は雨だった。55年前の同じ日の10月24日、東京は夕方までに雨が上がったらしい。〈暮れなずむ国立競技場にライトがついて、雨もようだったグラウンドは明るい舞台によみがえった〉。当時の本紙はそう伝える▲「平和の祭典」とは五輪の異称だが、1964年東京五輪の閉会式は、ぎしぎしと奥歯を食いしばって復興の坂道を上り続けた戦後日本の国民が、「平和の祭典」の達成感をかみしめた時でもあったろう▲当時の紙面からさらに引くと〈旗手の入場に続いて選手団がはいってきた。大会の間に育てた友情が国籍の垣根をとりはらい…〉〈ライバルと肩を組んでいる。爆発しそうな勢い〉。弾む調子で記事は続く▲旗手の最後尾は日本の競泳の福井誠さん(故人)で、後ろに各国の選手団が入り乱れて続いた。さっと福井さんを肩車したという。その頃を知らない身にも、胸を打つ場面だったろうと想像がつく▲来年の東京五輪の閉会式は8月9日で「長崎原爆の日」と重なる。長崎市と県は、黙とうを式に取り入れるよう求めている▲マラソン・競歩を札幌市でやる案に東京都が猛反発し、真夏の五輪はもめ事の真っ最中だが、「平和の祭典」を成し遂げる構えはどうだろう。胸に平和のトーチを、世界の国と肩車を。55年前の秋空を思い描いてみる。(徹)

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