将来の夢「同じ境遇を支えたい」 迫る決断の時「早く自立し、親孝行したい」 【連載】家族のかたち 里親家庭の今(6)

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 「自分は里子だから気持ちが分かる。同じ境遇にある子どもの話を聞き、支えてあげたい」。4歳の時から里子として育った太一さん(18)は今、佐世保市の大学で心理学などを学び、社会福祉に従事する専門職ソーシャルワーカーを目指している。
 将来の道を考える中で相談したのは、ソーシャルワーカーとして働く11歳上の長女だ。糸永富美男さん(57)、真利子さん(59)夫婦=同市=が太一さんを受け入れる際、後押ししたのが当時高校1年だった長女。そんな彼女が今の仕事を選んだ要因の一つに、太一さんの存在がある。
 「太一に構うばかりに、3人の子どもたちが我慢したり寂しかったりした部分はあったはず。逆に太一が(実子に)遠慮していた部分もあると思う」と、真利子さんは少し申し訳なさそうに振り返った。
 一緒に旅行に行ったり、毎日風呂に入ったり、もちろんけんかもしたり。長い時間をかけ、強い絆で結ばれた家族になっていった。「大変だったけど、お互いに影響し合える、いいきょうだいになってくれた」。富美男さんは目を細めた。
 昨年春ごろ、夫婦は太一さんから将来の話を初めて聞いた。その成長した姿が心底うれしかった。大学進学を希望する息子のため、里子を対象にした奨学金制度を探すなど全力で背中を押してきた。
 太一さんには決断の時が迫っている。養育里親の期間は原則18歳まで。現在は大学進学のため2年間の措置延長がされているが、20歳までには決断しなければならない。独り立ちして生きていくのか、糸永家と普通養子縁組を結ぶのか。
 太一さんはまだ決めていない。「20歳をすぎたら1人暮らしかな、と。バイトをして早く自立し、温泉に連れて行ってあげたり、親孝行をしていきたい」と秘めた思いを口にした。大学には、高校までの「糸永」姓ではなく、実親の姓「宮川」で通っている。
 夫婦は彼の考えを尊重するつもりだ。自立する道を選んでも、「あくまで戸籍上の話。家族関係は変わらない」と。一歩一歩、力強く、人生を歩んでいく息子を温かく見守っている。


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