ハッブル定数を測定する新手法が登場、今度は重力レンズを利用

今も膨張し続けているとされる宇宙。その膨張速度を示す「ハッブル定数」を求めるための新手法として、強い重力によって光が曲げられる「重力レンズ」を利用した新しい方法が登場しました。ハワイのW.M.ケック天文台から10月22日付で発表されています。

■手法によって異なるハッブル定数の計算値

今回の研究では、手前に存在する銀河がもたらす重力レンズの効果によって複数の像に分裂して見える「クエーサー」(中心付近が全体よりも明るく輝くほど活発な銀河)が利用されています。

こちらは今回の研究に利用されたクエーサーのひとつ「RXJ1131-1231」。「ハッブル」宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ「ACS」によって撮影されました。クエーサーの光は時折ちらつくことがあるのですが、重力レンズによってこのように分裂して見えるクエーサーの場合、それぞれの像がちらつくタイミングにズレが生じます。

研究チームは、このズレを利用してハッブル定数を求める手法を編み出しました。RXJ1131-1231をはじめ、重力レンズで分裂して見える合計3つのクエーサーを観測したケック望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡のデータを分析した結果、その値は「75.6km/s/Mpc」(※)と算出されました。

※…単位は「1メガパーセク(約326万光年)あたり1秒間で膨張する距離」を意味する

■真の答えにたどり着くにはより多くの研究が必要

宇宙論の根幹に関わるハッブル定数の計算値は、今年soraeで取り上げたものだけでも今回を含めて4つの値が発表されています。過去の研究で求められたハッブル定数の値とその算出方法をまとめてみました(単位は省略します)。算出方法によって、ハッブル定数には最大で1割もの差が生じていることがわかります。

67.4… 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を利用
69.8別の銀河にある赤色巨星を利用
70.3重力波の強さと波形を利用
74.03別の銀河にある天体の明るさを利用(Ia型超新星、ケフェイド変光星)
75.6… 重力レンズを利用(今回の研究結果)

今回の研究に参加したカリフォルニア大学デービス校のChris Fassnacht氏によると、値が異なる理由は「同じ時代のハッブル定数は宇宙のどこでも一定だが、時代が違えば一定ではない」からだとみられています。上記の手法は宇宙のさまざまな時代の観測結果をもとにしているため、時間とともに変化するハッブル定数の計算結果にも違いが生じていると考えられるのです。

数値の差が誤差や計算ミスに由来しないのであれば、その背後には、時代によってハッブル定数を変化させている何らかの理由が存在するはずです。カリフォルニア大学デービス校のGeoff Chen氏をはじめとした研究チームは、「独立した方法によって求められたハッブル定数どうしを比較することこそ、真実にたどり着くための唯一の方法だ」と論文に記しています。ハッブル定数をめぐる議論に決着が付くまでには、まだしばらく時間がかかりそうです。

関連:赤色巨星が導く銀河の距離。第四の測定方法でハッブル定数の新しい値が登場

Image: ESA/Hubble, NASA, Suyu et al.
Source: keckobservatory
文/松村武宏

© 株式会社sorae