新型たばこ、急拡大の裏側に潜む“知られざる健康リスク”

ここ数年、愛用する人が急激に増えた「IQOS(アイコス)」や「glo(グロー)」などの新型たばこ。なんとなく、紙たばこよりクリーンなイメージを持つ人もおり、「紙たばこは禁止だが、新型たばこならOK」という飲食店も出てきました。

しかし、米国では「ベイプ」とも呼ばれる電子たばこの健康被害が社会問題となり、政府は販売禁止の方針を打ち出しています。実は日本は世界一、新型たばこが普及している国といわれ、警鐘を鳴らす専門家もいます。


米国では疾患報告が次々と

「いずれ禁煙しようと思って、アイコスに切り替えました。これだったら体に悪くなさそうだし、副流煙も少ないし……」。都内在住の男性会社員はそう話します。

男性によると、紙たばこを吸っていた頃より、咳や息切れが少なくなった感じがし、周りにも勧めているそうです。2014年にアイコスが日本に上陸して以来、このような加熱式たばこは急速に普及しました。

新型たばことは、アイコス、グロー、プルーム・テックなどの加熱式たばこと、専用器で「リキッド」と呼ばれる溶液を吸う電子たばこの総称です。紙たばこに代わる勢いの新型たばこですが、米国では次々と疾患が報告されています。

米疾病予防センター(CDC)によると、10月8日現在で、電子たばこ使用に関連する肺疾患は1,299件発生。さらに、アラバマやカリフォルニアなど21州で、17~75歳の26人の死者が確認されました。

患者のうち70%が男性、80%が35歳以下。中でも20歳以下が約3割を占めました。新型たばこによる健康被害が、若い男性を中心に広がっていることが明らかになったのです。これを受け、米国では、トランプ政権がフレーバー付きの電子たばこの販売禁止する方針を決めたと報道されています。

日本も対岸の火事ではない

日本では、ニコチン入りの電子たばこの販売は許可されていませんが、ニコチンが入っていない電子たばこは若者を中心に広がっています。繁華街で専門店を見かけることもあります。

公衆衛生学が専門で、『新型たばこの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学』(内外出版社)の著書がある、大阪国際がんセンターの田淵貴大医師は、新型たばこのリスクを強く訴えている専門家の1人です。

田淵医師は、電子たばこによる健康被害のメカニズムについて、「現時点ではっきりと特定できていません。しかし、公開された患者の画像所見を見ると、電子たばこの加重使用や化学物質によって肺が障害を受け、炎症が起きて肺炎となったのではないかと考えられます」と推定します。

予防医学の考え方では、原因が結果を引き起こす詳細なメカニズムが解明されなくても、何らかの原因によって病気になる人が増えれば、その原因を遠ざけることで十分に予防できるとします。米国では、これ以上若者の健康被害が広がるのを防ぐために、すばやく販売禁止の方針を決めたものとみられます。

日本でもすでに、アイコスによる急性好酸球性肺炎が症例報告されています。この患者は一時的に生命の危機に陥りました。「体に悪くなさそう」と吸い始めた新型たばこによる健康被害が、実際に国内でも起こり始めているのです。

健康への影響が少ないというのは本当か

新型タバコのホームページを見ると、煙が出ないことや、有害物質が軽減されていることが書かれ、クリーンな製品であるイメージが強調されています。しかし、健康への影響が減るとはいっさい書かれていません。

たとえばアイコスのホームページをよく見ると、「喫煙は肺がんの原因の一つ」「心筋梗塞・脳卒中の危険性や肺気腫を悪化させる危険性を高めます」などと、健康へのリスクを明確に認めています。グローやプルーム・テックでも同様で、プルーム・テックのホームページでは「プルーム・テックの使用は健康へのリスクを伴います」としています。

これまでの研究で、紙たばこから出る煙には、ニコチンや一酸化炭素、ベンゼン、ホルムアルデヒトなど70種類以上の発がん性のある物質が含まれ、肺がんや慢性閉そく性肺疾患(COPD)、心筋梗塞など、さまざまな疾患を引き起こすことがわかっています。

一方で、紙たばこと加熱式たばこを比較すると、ベンゼンや一酸化炭素などの有害物質は確かに少ないものの、ホルムアルデヒトやニコチンなどはそれほど減っておらず、逆に増えている有害物質もあることが、研究から明らかになっています。

さらに、たばこが吸いにくい環境でも使用できる加熱式たばこは、より強固なニコチン依存症を引き起こす可能性もあるといいます。

日本は新型たばこの実験場?

「有害物質を出している以上、がんや循環器疾患になるリスクはあるし、周りに迷惑をかける受動喫煙の被害もあります。さらに、未知のリスクもあると考えられ、健康へのリスクが低いとはまったく言えません」と田淵医師は話します。

日本で特徴的なのは、新型たばこの中でも加熱式たばこの普及率が非常に高いこと。というのも、アイコスはフィリップモリスが世界に先駆けて日本で販売を開始。2016年にはJTがプルーム・テックを、ブリティッシュ・アメリカン・タバコがグローの販売を始めたからです。

その結果、2016年10月時点で、アイコスの販売世界シェアの96%を日本が占める状況になりました。現在では世界30ヵ国以上で販売されていますが、田淵医師は「たばこに寛容、ガジェット好き、空気を読むなど、日本人の国民性がマーケティングに利用された結果、アイコスは日本で大成功し、世界の実験場になった」と語ります。

田淵医師らの最新の研究によると、2018年には男性の14.5%、女性の4.7%、全体の9.7%の人がなんらかの新型たばこを使用。20代の使用率が16.9%と特に高かったといいます。さらに、その半数以上は紙たばこも併用していることがわかりました。

新型たばこの健康リスクにどう向き合うか

この調査では、加熱式たばこを使用した理由も聞いています。最も多かったのは、「他のたばこよりも害が少ないと思ったから」(60.6%)。続いて「たばこの煙で他人に迷惑をかけるのを避けるため」(58.8%)、「友人・知人が使っている(いた)から」(55.2%)でした。

電子たばこについても同様の理由が多く、自分や他人のたばこへの害に配慮した結果、新型たばこを選ぶ人が多いことがわかりました。

しかし、田淵医師は「私は、新型たばこは紙たばこと同じくらい有害なのではないかと予想しています。でも、それを証明しようとするには何十年という時間がかかるでしょう。新型たばこがこれだけ日本で広まってしまった今、どう対応すべきかを模索しないといけません」と警告します。

日本人の死因のうち、最も多い原因はたばこだという見方もあります。自分自身や周りの人が「これなら大丈夫」と思って新型たばこを吸っているのであれば、一度そのリスクとよく向き合ってみる必要がありそうです。

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