恐れ入りません

 上品な趣味とは自分でも思わないが、人の言い間違いはたいてい楽しくて、“名作”と出合うと手帳に書き残したりもする。そういう自分も言い間違いは名人級のようで、車にガソリン満タン、現金払いで、と注文するつもりが「現金満タン!」と言い放ったことがある▲ラーメン店で「こってり味」か「あっさり味」かと聞かれ、「こっそり味で」と答えた友人の名言もある。間違いは時として生活を潤すものらしい▲間違っても「こっそり」が通らない場合もある。秘書が選挙区の有権者に、渡してはいけない香典を渡していたという。公選法違反が疑われ、就任から1カ月半の菅原一秀経済産業相(自民)が事実上、更迭される形で辞任した▲菅原氏はメロンやカニも有権者に贈っていた、とも報じられたが、当人は「最近はしていない」と開き直ったという▲党内にも「ずいぶん前の話で心配ない」と楽観論が広がっていた。うっかりの間違いどころか法に触れるような行いも、やり過ごせると踏んでいたのか▲言い間違いの例をもう一つ。「恐れ入りません」。「恐れ入ります」と「申し訳ありません」がごちゃ混ぜになったらしい。「長期」の気の緩みか、何につけ「恐れ入りません」と顔に出がちな政権とおぼしいが、世間の渋面には大いに恐れ入るべきだろう。(徹)

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