【高校野球】中日ドラ1の東邦・石川 「目標は三冠王」と…侍J同僚に誓った4年後の自分

東邦・石川昂弥(左)と熊田任洋【写真:編集部】

同僚のU-18高校ジャパン・熊田任洋とドラフト前にインタビュー、熊田は進学予定

 17日のドラフト会議で3球団競合の末、中日が東邦の石川昂弥選手の交渉権を獲得。野手トップクラスの評価を受けた。石川は同僚の熊田任洋内野手とともに、U-18侍ジャパン日本代表にも選ばれ、W杯に出場した。石川はプロへ、熊田は進学の予定。3年間、寝食を共にし、同じプロの世界を目指しながら別々の道へ進む2人。これからの目標、4年後の自分を想像してもらいながら、ドラフト前に2人にインタビューを行った。

 髪の毛は伸び、服装はユニホームではなく、学校の制服を着た2人と対面した。甲子園やU-18とはまた違う一面が見えた。

 まずは、高校野球を引退した今、どのように調整しているのか。

石川「いつも通り、木のバットで練習をしています。ジムにも通い、体を強く、大きくしています。木製バットでも飛ぶように、スイングスピードを上げるようにやっています。体重は夏84キロだったのですが、92キロになりました」

熊田「大学でやるための体作りとか、基礎練習をしています。体重は1キロちょっと増えたくらいです。ジムには行ったりしています」

 石川は入学時72キロしかなかったため、3年間で約20キロ増量したことになる。石川と熊田と共に下宿生活を送っていた伊東樹里君(3年)の証言によると、「体育祭で走っていた時、見え方がいつもと違って昂弥じゃないみたいでした」と毎日一緒にいても驚くほど、スケールアップしていた。これまで着ていたポロシャツがピチピチになっているそう。

 チームの中心で、精神的支柱だった2人。お互いのことはどのように感じていたのだろうか。

石川「お互いの存在ですか? 意外となんとも思っていないです(笑)。チームを引っ張っていく中で、すごく大事な存在でした」

熊田「(石川は)チームの勝利に貢献してきたので、頼りになるなと思いました」

 入学した頃、熊田は石川の打撃を見て、技術の高さに目を疑った。強いライバル意識というものはなかったようだが、東邦を引っ張る上で、欠かせない存在だとすぐに分かった。

石川「(熊田は)しっかりしています。抜けているところもあるんですけど、天然なのかな?、と突っ込むところはいっぱいあります。冗談を言っても……」

熊田「すぐ信じてしまうんです」

石川「(食事の席で)すごい生肉に見えるお刺身が出たんですよ。トイレから帰ってきたら、僕と樹里(伊東)が冗談で『これは焼くんだよ』と言ったら、火もついていない網にそれを肉だと思って、乗っけてしまう、とか」

熊田「(苦笑……)」

石川「疑わないんです(笑)。でも、こいつ(熊田)は勉強できるんです。野球部では一番。(僕は)中の下くらいです」

大学日本代表との試合で森下(明大)-海野(東海大)のバッテリーに驚愕

 選抜を制した東邦だったが、夏は愛知大会2回戦で、星城相手に3-10と8回コールド負けを喫し、敗退。この夏のチームは、どのような状況だったのか。

石川「僕は覚えていないです……」

熊田「覚えていないっす」

石川「一瞬でした」

熊田「甲子園優勝してから、勝てなかったです」

石川「練習試合は勝てるんですが、公式戦になると勝てる気がしなかったというのはあります」

熊田「勝っているんだけど、勝ち逃げることができない。打線もつながらなかったです」

石川「(選抜で優勝した後は)欲が出たんじゃないかと思います。チームとしてちょっと天狗になったところがあったんじゃないかなと。一人一人のバッティングの考えが変わってしまった」

熊田「自分もそうだったかもしれないけど、選抜が終わってから自分たちは何が悪いか、言葉にできなかったし、指摘は減っていた。言い合えなかったというのがあります。(言わなくてもわかるだろうみたいな)そういうのもあったと思います」

“早すぎた”夏の終わりをこのように振り返った。その後、2人はU-18侍ジャパン高校日本代表に選ばれ、W杯を経験。奥川恭伸(星稜)、佐々木朗希(大船渡)などとチームメートとして戦った。大学日本代表と対戦した経験も今後、上の舞台での活躍を誓う2人には刺激になった。どのようなことを感じ、得られたものがあったのか。

石川「スピード感です。国際大会も大学生との試合もそうなんですが、僕(が二塁走者の時)捕手が牽制で投げて、こっち(三塁)に走った場面がありました。正直に言いますと、戻れなかったから、(三塁に)走ったんです。(明大・森下暢仁投手の)150キロのスピードに、(東海大の)海野(隆司)捕手からの二塁への送球が速かったです。高校生のスピードではついていけなかった。それに打席で見た大学生投手の球は、低めのボールだと思ったら、普通にストライク。普通のストライクゾーンだと思って振ったコースが実際にテレビで見たら、めちゃくちゃ高めのボール球だった。伸びが違いました」

熊田「自分はこれから大学のレベルでやっていく上で得たもの、課題が見つかりました。得たものは、木製バットの対応です。バットのヘッドの重みを利用してスイングしたり、自分の形でスイングしたり……それをわかってやって、結果が出ました。(課題は)プレーの安定感を出していくことや、コンディションを整えたりなどをしっかりやっていくことです」

石川「あのメンバーの中でやれたことがよかったです。(智弁学園の坂下翔馬内野手と)一緒の部屋だったので、一番しゃべったりしました。(花咲徳栄の)韮澤(雄也=広島4位)とも結構、連絡をとり、プロ志望届を出したので『一緒のところ行きたいね』とか。調査書が来て『ここ何て書いた?』と話をしていました」

石川の目標は「3冠王」、熊田は「大学で結果を出せたら(プロ志望届)出したい」

 投手として選抜決勝の習志野(千葉)戦で3安打完封劇を演じた石川だが、スカウトの評価は野手として高い。選抜の時もすでに口にしていたが、石川本人も野手でプロの世界で勝負する気持ちでいっぱいだった。

石川「ピッチャーはやりたくないです。嫌なんです(笑)。打者としての目標は3冠王。大谷翔平選手みたいに、反対方向へのホームランと柔らかいスイングであれだけ飛ばせる選手になりたいです」

 熊田は進学予定。日本代表に入ると、他のプロ志望選手の影響で考えが変わることも多いのだが、冷静に自分の現在地を把握していた。

熊田「まだまだ、プロに行けるようなレベルに達していないので大学でレベルを上げたいなと思います。大学で結果を出せたら(プロ志望届)出したいなと思います」

石川「熊田がプロに入るときまでに1軍でレギュラーになれるようにしたいです」

熊田「また一緒にプレーができるようにしたいです。その頃までに主力選手に(石川には)なっていてほしいです」

 すっかり大人びた石川と、まだあどけなさも残る熊田。プロと大学、別々の道に進む対照的な2人。部活動だけでなく、クラスメートでもあり、同じ下宿先で過ごした“兄弟”でもある。石川の人生が決まった17日のドラフト会議。その姿を見守った熊田にとっても刺激的な1日になっただろう。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。朝日放送「おはようコールABC」、毎日放送「ミント!」に出演するほか、MBSラジオ、GAORA阪神タイガース戦リポーターを担当。スポーツニッポンで春・夏の甲子園期間中はコラムを執筆。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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