キャシディがついに悲願の初タイトル獲得! 野尻が5年ぶり優勝【スーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿決勝】

 10月27日、全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦『JAF鈴鹿グランプリ』の決勝レースが行われ、6番手スタートのニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)が2位を獲得し、ランキング2位から逆転で2019年のスーパーフォーミュラドライバーズチャンピオンに輝いた。優勝を飾ったのは野尻智紀(TEAM MUGEN)で、3位には福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が入った。王座を争ったランキングトップの山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)は5位、アレックス・パロウ(TCS NAKAJIMA RACING)は19位でレースを終えている。

 いよいよチャンピオンを決するスーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿の決勝。8時10分から行われたフリー走行は曇り空のもとで行われたが、14時の決勝レーススタートを迎えるころには晴れ間が広がった。レース開始時の気温は23度、路面温度は26度と、この時期にしては暖かい気候だ。

 今季のスーパーフォーミュラで注目を集めるスタートタイヤの選択は、上位勢はポールポジションのパロウがミディアムタイヤ。2番手の野尻と3番手のルーカス・アウアー(B-Max Racing with motopark)はソフトタイヤを選択。5番手の山本はミディアム、6番手のニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)はソフトと戦略は分かれた。そしてそんななか、ウエットタイヤでスタートした場合、タイヤ交換義務が適用されない盲点をつき、晴天のなかで16番手スタートの小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)が、なんとウエットタイヤを履く作戦に出た。

 スタートでは、パロウがホールショットを決めて先頭で1コーナーに向かい、野尻がそれに続く。ところが3番手のアウアーはスタートで動き出すことができず、これで好スタートを決めた山本が3番手に浮上、福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が4番手、キャシディが5番手に続く。一方、ウエットを履いていた可夢偉は1周目を終えてピットインし、ソフトに交換。ピット作業で3秒程度のタイムロスもあったが、クリアラップでの追い上げを開始した。

 序盤にソフトを履いた5番手のキャシディは、その利を活かしまずは福住をかわして4番手に浮上すると、さらに3周目に日立オートモティブシステムズシケインで、目下のタイトル争いのライバルである山本をパスして3番手につける。

 タイヤ交換義務で定められた7周を終えると、山本をはじめとしたミディアム装着車がピットイン。ソフトタイヤに交換する。翌周には首位を走っていたパロウも野尻とのバトルを展開した後にピットイン。ミディアムスタートの福住もこれに続き、見かけ上ソフトスタート勢とミディアムスタート勢が分かれていく。ただ、ピットアウト後、福住は山本の前でコースに戻ることになった。

全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦鈴鹿のスタート
山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)
アレックス・パロウをオーバーテイクする福住仁嶺
タイヤ交換義務のレギュレーションの盲点をつき、スタート時にレインタイヤ装着という“奇策”に出た小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)。セーフティカーが出ていたら……と思わせる作戦だった。

■レースはソフトスタート勢が優位に。キャシディが初戴冠

 これでレースはタイミングモニター上の争いとなっていくが、そんななか、ミディアムスタートのパロウは、ソフトタイヤでのペースが上がらない。これに福住が仕掛けると、18周目の130Rでパス。さらにパロウはタイトルを争う山本にも追いつかれ、130Rでふたりはサイド・バイ・サイドになり、アウトから並んだ山本が130Rでコースオフして一瞬、危ない場面もあったがコースに復帰。戻った山本はタイヤに着いたダストを取るのに数周を要したが、再び130Rでパロウに並び掛かり、今度はインを差してオーバーテイクを決める。

 一方、山本に先行されてしまったパロウはその後、ズルズルと後続にも抜かれてポジションダウン。29周目には再度ピットインし、逆転王座の希望は一気に遠ざかってしまった。

 途中、開幕戦鈴鹿でも2度接触した中嶋一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)とハリソン・ニューウェイ(B-Max Racing with motopark)が2コーナーで接触するなどのシーンはあったものの、大きなアクシデントやグラベルストップはなく、ミディアムスタート勢が期待したセーフティカーは出ないままレースは終盤を迎えた。

 ソフトスタート勢のなかでは野尻、キャシディ、そして序盤順位を上げた関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)、石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)が続く。ソフトスタート勢は、ミディアムのラップタイムとスタート時に履いたソフトタイヤの保ちを比較しながらピットインのタイミングを探ることになるが、ミディアムスタートのピットイン消化組に対するアドバンテージが築かれはじめていた。

 トップを走る野尻は32周を終えピットインすると、首位を守ったままコースに戻ることに成功。さらに2番手につけていたキャシディは34周目、インラップのブレーキングで白煙を上げるプッシュをみせるとピットに飛び込み、ミディアムに交換。野尻の先行を許すも福住の前となる2番手でコースに復帰する。福住はピットアウト直後のキャシディを追うが、キャシディはポジションを死守した。

 作戦的中&好ペースでトップに立った野尻は、2番手のキャシディに2.532秒のギャップを築きチェッカー。2014年第6戦SUGO以来、5年ぶりの優勝を飾った。最終的に、今季のスーパーフォーミュラは7戦で7人のウイナーが生まれる珍しいシーズンとなった。

 そして注目されたチャンピオン争いは2位に食い込んだキャシディが、5位に終わったランキングトップの山本を逆転し、2019年のスーパーフォーミュラドライバーズチャンピオンを獲得した。昨年ランキング2位となったキャシディにとっては、悲願のタイトルだ。

「なんと言ったらいいか分からない。VANTELIN TEAM TOM’Sは僕の日本でのキャリアを一緒に歩んできたし、素晴らしいチームだ。こうしてチャンピオンという結果で返すことができて本当に嬉しいよ」と、キャシディは噛みしめるようにレース後に語った。

 なお、スーパーフォーミュラにおける外国人ドライバーのチャンピオン獲得は、2011年のアンドレ・ロッテラー(PETRONAS TEAM TOM’S)以来のことだ。

 3位には福住が入り、こちらはスーパーフォーミュラで初の表彰台を獲得。4位は追い上げた関口、そして山本と続き、最後尾スタートながらソフトスタートだった石浦が6位。塚越広大(REAL RACING)、平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)までが入賞となった。パロウは19位となったが、2019年シーズンのルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いている。

野尻智紀(TEAM MUGEN)
ニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)
スーパーフォーミュラの2019年チャンピオンを決め渾身のガッツポーズをみせるニック・キャシディ
全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦鈴鹿の表彰台
全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦鈴鹿を制した野尻智紀(TEAM MUGEN)と中野信治監督
開幕戦に続き接触してしまったニューウェイと中嶋一貴
石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)
塚越広大(REAL RACING)
スーパーフォーミュラの2019年チームチャンピオンはDOCOMO TEAM DANDELION RACINGが獲得した。
全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦鈴鹿を制した野尻智紀(TEAM MUGEN)と中野信治監督
チャンピオンを逃し、涙をみせる山本尚貴を慰めるDOCOMO TEAM DANDELION RACING村岡潔監督

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