育成から半年で侍ジャパンへ 鷹・周東を変えた転機と本多コーチからの言葉

ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

今季開幕直前に支配下に昇格し「プレミア12」の侍ジャパンメンバーに

 11月2日に開幕する「第2回 WBSC プレミア12」に出場する野球日本代表「侍ジャパン」は27日、1次合宿地の宮崎から2次合宿地の沖縄へと移動した。この日から日本シリーズに出場していたソフトバンクと巨人の計12選手も合流し、全28選手が勢揃いした。

 球界を代表する選手が集い、日の丸を背負って戦う侍ジャパン。そのメンバーの中で、異彩を放ち、そして注目を集めることになるのがソフトバンクの周東佑京内野手だろう。

 今季開幕直前まで背番号「121」の育成選手。支配下登録を勝ち取った今季のスタメン出場はわずか22試合で、打撃成績は102打数20安打1本塁打6打点、打率.196。それでも、チームトップの25盗塁をマークした。ほぼ勝負所の代走起用“だけ”で侍ジャパンメンバーにまで一気に駆け上がった。

 7か月ほど前まで育成選手だった周東。背番号「121」から、わずか半年ほどで日の丸を背負うまでに

 周東は今春の宮崎キャンプが自身にとっての転機だったという。「あそこでB組だったら、何もなかったと思います」。育成選手ながら主力の集うA組に抜擢。より一層レベルの高い選手たちに囲まれながら、オープン戦にも出場して経験を積むことができた。

 そして、新たに就任した本多雄一内野守備走塁コーチの存在も大きかった。現役時代の2010年、2011年と2度の盗塁王に輝いた、かつての走塁のスペシャリスト。なおかつ、今季、チームはスローガンに「奪sh!」を掲げ、走塁改革の方針を打ち出した。本多コーチの存在、そしてチームの方針。タイミングというか、運もあった」。周東の存在を後押しする“流れ”があった。

春季キャンプ中にかけられた本多コーチの言葉「取り組みが甘い」

 そして、その本多コーチの一言が周東を変えた。「キャンプ中ですね。『取り組みが甘い』と本多コーチから言われていました。ましては育成なので『周りとは違う。どう自分で考えて行動するか』というのはずっと言われていました」。

 育成選手を数多く支配下へ、そして日本を代表する選手へと成長させているソフトバンクの考え方は“育成はプロにあらず”。支配下と育成は全くの別物で、育成選手は支配下選手以上に、野球に真摯に取り組み、野球のことを考えることが求められる。

 周東も本多コーチからの言葉を受け「変わらないといけないなと思いましたね」という。己の生きる道は走力であることは自覚している。「走塁のことは1番考えます。それがなかったら、現状生き残れないですから。判断だったり打者の特徴、打球の特徴も分かっておかないといけないです」。どうすれば、自分の脚力を生かせるか。それを最大限に考えて成長を遂げてきた。

 失敗の許されない極限の場面で起用されることがほとんど。それだけにポジティブ思考が大事になる。「自信を持つようにしてます。できるできると思わないと、走れなくなっちゃうので。戦場にポッと出されるようなものですからね……」。スペシャリストとしてかかるプレッシャー、苦労は絶えない。

 先日まで行われていた日本シリーズでは代走として出場するだけで、球場の雰囲気を変え、塁上にいるだけで相手のバッテリーに尋常ではないプレッシャーをかけた。己の役割を「走るだけじゃない」と話していた周東。初の侍ジャパンの舞台で一体、どんな働きを見せてくれるのか。楽しみでならない。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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