社説(10/28):岩手公園整備/「相場」を外してはいないか

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 日本の原風景を色濃く残す飛騨高山。その玄関口に位置する岐阜県飛騨市の古川町では「そうばくずし」という古びた地元言葉が、今も暮らしの教訓として息づいている。世間一般の通り相場を踏み外す行為を指すそうだ。

 ここから西村幸夫東大名誉教授(都市計画)は「そうばくずし」を戒める飛騨古川の人々の心性こそが、美しい景観を今日まで守り通したゆえんではないかと論じる。

 翻って盛岡市による岩手公園(盛岡城跡公園)の整備計画はどうか。民間資金活用による社会資本整備(PFI)の手法を導入。選定された民間事業者が芝生広場1万1000平方メートルに商業施設を建て、にぎわいを創出するという。

 市の中心部にあって壮観な石垣と四季の樹木が美しい景観を織り成す岩手公園は、市民のみならず、岩手県民や盛岡を古里とする人々にとっても特別な空間になってきた。

 戊辰戦争後に荒れ果てた城跡の再生を訴えて公園の基礎を築いたのは、女性を中心とする明治後期の市民運動だった。今年3月には市民参加型の舞台「岩手公園ものがたり」を上演。谷藤裕明市長もメッセージを寄せている。

 国際姉妹都市との交流を物語る記念植樹、先人の業績を伝える記念碑など盛岡という都市の歴史や記憶を一つ一つ刻んできた場所でもある。

 近年は城郭の眺望を確保しようと公園周辺の建物に高さ制限を導入し、景観を次代に引き継ごうと緩んだ石垣の改修を進む。岩手公園について市と市民は、ごく最近まで相場を共有してきたはずだ。

 こうした景観や営みを一変させかねない商業施設の整備計画である。市民の賛否が割れることは容易に予想されよう。一体何が市を「そうばくずし」へと向かわせたのか。

 思い当たるのはPFIによる公園整備を可能とした2017年の都市公園法改正だ。

 しかし改正法が本来想定したのは、民間が公園管理を代行することによる行政経費の節減や待機児童解消のための保育施設整備だった。地域課題の解決に公園を有効活用したらどうかという提案だ。

 許可面積の上限まで使って商業施設を建てるのでは、法令の拡大解釈が過ぎよう。

 商業施設の設計は著名建築家が担うという。市は「建物の話題性だけでも盛岡を訪れる観光客が倍増する」と期待を寄せる一方、提出された設計素案には有識者委員会から「盛岡のまちにそぐわない」との懸念が示されている。

 ただ、当の建築家は雑誌のインタビューで「依頼主の好みに合わせようとは全く思わない」と自身の建築思想を語っている。果たして市民と相場は共有されるのか。

 何もしない行政が批判にさらされてしまう時代ではある。だが、相場を踏み外さないよう小さな変化を丁寧に積み上げるのもまた、行政に求められる見識の一つだろう。