ゴミ排出量を削減した企業の株価が好調である“納得の理由”

大型台風による甚大な被害が毎年のように起こるようになってしまいました。海水の温度が上昇したことで、強大な台風が発生しやすくなったともいわれます。地球温暖化をストップするための努力が待ったなしの状況です。

地球温暖化の原因の多くは、人間が活動することにより排出される温室効果ガスの増加です。そして近年、温室効果ガスの削減に向けた企業の努力が期待されています。9月27日の連載では、温室効果ガスの削減をした企業の株価は上昇することを紹介しました。

温室効果ガスの削減は地球温暖化対策の国際的な取り決めもあり、「2030年度は2005 年度比で25.4%の削減」という日本政府の目標があります。この目標に整合して活動できる企業は長期的に収益面でも余裕があり、それが株高につながるということは理解できます。

そこで今回は、環境と企業の姿勢に関して、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。少し言い過ぎかもしれませんが、より企業が自主的に環境について考えているかという観点でいえば、たとえば「会社が排出するゴミの削減」が挙げられます。


ゴミ削減は循環型経済に必須

温室効果ガスの排出削減とゴミの削減は、集計するうえでは異なった項目になります。しかし、ゴミを燃やすことで温室効果ガスが発生することや、リサイクル製品が作られなかった場合に同等の製品を作るために必要な燃料を燃やすことで温室効果ガスが発生することなど、問題の本質は密接に関係しています。

2016年に行われた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、「このままの状態が続くと、海のプラスチックの量は2050年までに魚の量を超える」との試算が発表されました。

世界的にもプラスチックごみを減らすために、ビニール袋の利用を減らしたり、紙製のストローに置き換えるなど、さまざまな努力が期待されています。北極や南極でもプラスチックの小破片が少なからず見つかるほどにもなっており、人体への影響も心配されています。

こうした中で世界的に注目されている流れが、「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」と呼ばれるものです。回収・リサイクル、省資源製品の開発で、できる限り新たな天然資源の使用と廃棄物を減らす社会の仕組みを作ろうというものです。

このサーキュラー・エコノミーの実現でゼロエミッション(ゴミなど廃棄物をいっさい出さない)を目指すことが、政府や企業、そして個人レベルでも期待されています。近年は、ゴミ削減の努力をウェブサイトなどで公表する企業も見られます。

積極的にゴミを減らした企業を割り出す

ゴミ削減は日本全体での数値目標がないことから、むしろ企業側の自主的な姿勢が大きく反映するテーマとも考えられます。近年の株式市場では、環境に意識が高い企業の株式パフォーマンスが好調である、とみる投資家が少なくありません。それだけに、ゴミの削減ができた企業との株価の関係はより強く表れると考えられます。

分析結果を紹介しましょう。東証1部でゴミの量(廃棄量)を公表している企業を対象に、毎年1回、8月末時点で取得できるゴミの量をチェックします。その量について3年前と比べて「減らした企業」と「そうでない企業」に分類して、同様に、その後1年間の株式の平均収益率を見ました。

この分析には注意が必要です。単純にゴミを減らしたとしてデータ分析をすると、たとえば、会社が不景気で工場の稼働も低下したことでゴミが減ったことがカウントされ、景気の悪い企業のほうがゴミを減らす努力となってしまいます。

そこで、会社全体の活動量を示すものとして、売上高で割っています。つまり、「ゴミの量÷売上高」を「減らした」と「それ以外」で分類することにします。また、微妙なゴミの量の変化が企業の努力か判断するのも難しいため、ゴミの量÷売上高で見て、3年前と比べて、0.1ポイント以上減らした企業を「減らした」企業としました。

なぜ温室効果ガスより関連性が強いのか

表で示した収益率は、2010年以降でさらに平均しています。結果は、事前に予想どおりとなりました。「減らした」企業の平均株式収益率(その後1年間)は21%となり、「それ以外」の13%を上回りました。

【東証1部上場企業のゴミ削減の有無とその後の平均株式収益率】

(注)「その後1年間」は2010年以降、8月末での東証1部企業の排気量合計÷売上高が3年前と比べて「減らした(0.1ポイント以上)」と「それ以外」で分類して、その翌月から1年間の株式収益率の平均をさらに時系列で直近まで平均。同様に「その後3年間」は翌月から3年間の株式収益率の平均をさらに時系列で直近まで平均
(出所)Bloombergのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

さらに、長期的な株式パフォーマンスを見るために、その後の3年間の収益率の平均も見てみました。こちらも「減らした」企業の平均株式収益率(その後3年間)は79%となり、「それ以外」の53%を上回りました。

実は、冒頭で紹介した9月27日の連載の「温室効果ガス削減」の調査では、3年間の長期的に見た収益率の平均は「減らした」企業のパフォーマンスが良かったのですが、1年間の短期的な株価パフォーマンスは傾向が明確ではありませんでした。

この点は、今回のゴミ削減のケースと大きく異なっています。やはり、ゴミ削減のほうが企業の環境問題に対する自主的な対応姿勢の表れの傾向が強いからかもしれません。

また、ゴミ削減は企業の効率性とも関連します。身近な例で考えてみましょう。近年はゴミ削減の一環でペーパレス化を目指す企業も増えています。たとえば、会議の資料を配布せず、個人が持ち込むパソコン上で資料を閲覧する企業もあります。

こうすることにより、印刷物を減らすこともできますし、印刷するための労働コストも減らすことができます。ゴミを減らした企業が長期だけでなく、短期的にも株価パフォーマンスが良い傾向なのは、こうした企業の効率性が高いということと関連しているのでしょう。

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