既成政党の間隙突いたN国 対決図式や力関係に微妙な変化か 参院埼玉補選

 10月27日に投開票が行われた参議院埼玉選挙区補欠選挙の投票率は、史上最低記録の更新こそ免れたものの、20.81%に低迷した。

 県の選挙管理委員会が作成した啓発ポスターや動画では、漫画「翔んで埼玉」に登場するキャラクターが「また選挙か…」「また選挙があるのか!?」と叫ぶが、選挙があることを知らずにいた人の方が多かったのではないのか。

埼玉県選挙管理委員会が人気漫画「翔んで埼玉」のキャラクターを起用して作成した啓発ポスター

 街頭やスマホで選挙のあることに気が付いた人は、「なぜ今なのか」と疑問に思ったに違いない。気を取り直して立候補者の顔ぶれを見れば、この8月まで16年間の長期にわたり知事を務めていた上田清司氏と、つい先日まで参議院議員だったはずのNHKから国民を守る党(N国)党首の立花孝志氏、前知事とユーチューバーの二人だけ。これを一騎打ちというのだろうか。「一体、何の選択なのか」「何を基準に選んだらいいのか」、当惑が募っただろう。一票を投ずるにあたって、乗り越えるべきハードルは大きい。

 にもかかわらず、投票所に出向いた人たちが127万余を数えた。多寡の評価は、ひとまず差し控えたいと思う。

 今回の補欠選挙は、現職参議院議員の大野元裕氏が8月の知事選に立候補するため、任期途中で議員を辞めたことに発する。大野氏が、7月に実施された参議院の通常選挙前に辞職すれば、補選も同時に行われ10月の単独選挙の必要はなかった。なぜ、そうならなかったのか。当時、現職知事だった上田氏が大野氏の後任の座を目指していたからだろう。大野氏によるアシスト、つまり、知事選への立候補時点まで参議院議員を続けたおかげで、上田氏は4期目中途で辞めずに、知事の職を全うすることになった。しかも、単独の補選となれば、全県一区の定数1ゆえに、埼玉の顔として世間に露出し続けてきた上田氏が極めて有利なことは明白だ。

 上田氏がおもむろに立候補を表明すると、与党の自民は独自候補を擁立せず、野党各党も、立民をはじめ共産までもが候補者を立てず、無投票すら想定された。

 既成政党が責任放棄した、その間隙を突いたのがN国だ。N国党首の立花氏は、過激な主張やパフォーマンスがどれほど許容されるのかを示すバロメーター的存在と言えよう。しかしながら、今回は、他のすべての政党が上田前知事に(消極的に)相乗りする形となったため、前知事が既成勢力を代表し、N国の立花氏はそれに対抗する反既成勢力という、ねじれた対立構図が現出した。N国の過激なイメージは確実に相対化されつつある。

 国政選挙である以上、選択の基準は安倍政権への評価にほかならない。憲法改正問題を重要視する人は、上田氏に安倍首相を重ね合わせたのか。さりとて、オールタナティブは立花氏以外にはいない。それでも投票するという時、これまでとは違った観点で選ばざるを得なかったかもしれない。

 上田氏の圧勝とは言え、N国の立花氏が獲得した168,289票は13.6%に相当する。10代から40代ぐらいまでの比較的若い層における得票率は、2割前後を占めたと推定される。社会はこの結果をどう受け止めるだろうか。政治の対決図式や政党と有権者間の力関係に微妙な変化が生じているとすれば、投じられた一票は、意外に重い一票だった気もする。 (埼玉大学教授=松本正生)

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