若松プロ、2作品引き上げ 慰安婦映画の上映中止に抗議

若松プロダクションがホームページに掲載した声明文

 川崎市麻生区で開催中の「KAWASAKIしんゆり映画祭」で、慰安婦問題を扱ったドキュメンタリー映画「主戦場」の上映が一度は予定されながら中止になった問題を受け、映画製作会社の若松プロダクション(東京都渋谷区)は28日、同映画祭で上映予定だった2作品の上映を取りやめると発表した。主催者側の対応に抗議の意思を示すためとしている。

 「主戦場」を巡っては、一部出演者が6月、上映禁止などを求めて訴訟を起こした。同映画祭を共催する川崎市は主催者のNPO法人からの相談に対し、「訴訟になっている作品を上映することで、市や映画祭も出演者から訴えられる可能性がある」と懸念を伝えた。主催者はその後、内定していた同作の上映を中止した経緯がある。

 若松プロはホームページ上に声明文を掲載。「例え国や自治体からの補助金が出ていたとしても、映画祭には自分たちが選んだ映画を守り、映画と観客をつなぐ役割があることは明らか。その義務を自ら放棄するしんゆり映画祭の姿勢に失望の念を禁じ得ない」と一連の対応を厳しく非難している。

 川崎市が「懸念」を伝えた点については「明らかに公権力による『検閲』『介入』だ」と指摘。主催者による上映中止という判断に対しても、「過剰な忖度(そんたく)により、『表現の自由』を殺す行為にほかならない」と強く批判した。その上で「表現する側の自主規制や、それを審査・発表する側の事前検閲により、表現の自由がさらに奪われていくことになる」と強い危機感を示した。

 若松プロが上映取りやめを決めた2作品は「止められるか、俺たちを」(白石和彌監督)と「11.25自決の日~三島由紀夫と若者たち」(若松孝二監督)。

 映画祭の中山周治代表は「作り手側が表現の自由について、非常に高い意識を持っているのは十分に理解している。『過剰な忖度』と捉えられても仕方がないが、主催者としてリスク管理とのバランスを考えて判断した」と釈明した。

 公権力による「検閲」や「介入」との指摘に対し、市市民文化振興室は「そのつもりはない」と従来と同じ説明を繰り返した。映画祭に影響が出ている点に関しては、「お答えすることはない」とした。

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