グリーン車並みの「価格破壊」普通車!

「鉄道なにコレ!?」(第3回)

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大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信社編集局経済部次長

大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信社編集局経済部次長

1973年東京都生まれ。97年に入社し、松山支局、本社経済部、ニューヨーク支局などを経て2016年10月から現職。運輸と旅行、国際経済の分野を長く取材し、日本一の鉄道旅行を毎年選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」の審査委員を務めている。

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 「JRの特急で遠出する際はゆったりした座席でくつろぎたいが、グリーン車は高いし…」。そう尻込みする方にお薦めしたいコスパ抜群の普通席が、JR九州の博多(福岡市)と長崎を結ぶ特急「かもめ」の一部列車にある。座席間隔は新幹線のグリーン車よりも長く、後ろの人を気にせずに背もたれを目いっぱい倒すことも可能だ。JR九州が「価格破壊」に踏み切った理由は?

 (共同通信社福岡支社編集部次長 大塚 圭一郎)

 ▽グリーン車級普通席の見つけ方

JR九州787系の足元空間が広い787系の車内=2019年10月21日、長崎市で筆者撮影

 「特急『かもめ』で長崎へ近く出張します」とJR九州社員に伝えた際、「それならば、ナナパーナナの4号車の指定席を予約するのがお薦めです。驚くくらい足元が広いですよ」と教えてくれた。ナナパーナナとは特急用車両「787系」のこと。JR九州関係者が「パーパーゴ」と呼ぶ885系も「かもめ」で運用されているため、この社員は787系と明示したのだ。

 時刻表で787系を使った「かもめ」を見つける近道は、787系にしか備えていない「DXグリーンがあります」と記された博多―長崎間の列車を選ぶことだ。一方、885系で運転する列車は、白い車体塗装にちなんで「白いかもめで運転」と書かれている。

 列車を選び、「みどりの窓口」で予約する場合は「4号車」と指定するだけではなく、「ボックスシートではない座席で」と付け加えるのが無難だ。というのも、4号車のおよそ半分は簡易な間仕切りを備え、2人掛けの座席が向かい合って計4人まで利用できるボックスシートになっているからだ。テーブルも備えており、3人以上ならば予約できるのでグループ利用に適しているが、座席の背もたれが倒れないのが難点だ。

JR長崎線を力走する特急「かもめ」の787系=19年1月3日、佐賀県で筆者撮影

 ▽新幹線グリーン車より4センチ広い足元

 かくして博多駅で乗り込んだ4号車の普通車指定席の足元の前後間隔は1メートル20センチと、東海道・山陽新幹線の標準的な1メートル16センチよりも広い。787系の通常の普通席は前後間隔が1メートルなので20センチも長く、座席のクッションも厚みがあるため身を沈めてくつろげる。座席数は23席あり、うち1列は横に左右合わせて3席、残る5列は左右2席ずつある。

 普通席なのにぜいたくな空間が用意されているのには、こんな理由がある。787系は、博多と西鹿児島(現鹿児島中央、鹿児島市)を結ぶ特急「つばめ」で運用するため1992年7月に登場した。かつての東海道・山陽線を駆けた名門特急で、山陽新幹線の博多までの全線開業に伴って1975年3月に廃止された「つばめ」の名前を17年の歳月を経て復活させたことからもJR九州の気合いの入り方がうかがえる。

 当時は九州新幹線が開業しておらず、航空機に対抗できる快適で楽しい列車にするため用意されたのが食事を提供するビュッフェだった。天井は「スーパーエッグドーム」と名付けた楕円形にして間接照明で客室を照らした。

 だが、2004年3月に九州新幹線が新八代(熊本県八代市)―鹿児島中央間で部分開業して「つばめ」の愛称を新幹線に引き継ぐと、787系は未開通の博多―新八代間をつなぐ特急「リレーつばめ」に運転区間が短縮された。ビュッフェは廃止され、その跡に設置されたのが足元の広い普通席だ。

 ただ、「スーパーエッグドーム」という独特な形をした天井のため、座席の上に荷物棚を設置できない。そこで、足元に荷物を置けるようにするため、座席間隔を広くしたのだ。11年3月の九州新幹線の博多までの全線開業に伴って「リレーつばめ」は消滅したものの、転用先の列車で豪華な車内空間を今も味わえるのだ。

計4人まで利用できる787系のボックスシート=19年3月1日、福岡市で筆者撮影

 なお、博多を午前7時17分に出発する長崎行き「かもめ」5号の平日に運行する列車は、足元が広い座席とボックスシートを備えた4号車を自由席で運用する。普通車自由席でグリーン車並みの座席を堪能できれば、朝からラッキーな気分で満たされることだろう。

 ▽“在来線版グランクラス”も

 東北・北海道新幹線と上越新幹線の一部と、台風19号による記録的大雨で10編成、計120両が浸水ししたため通常ダイヤより本数を約1割減らして運転中の北陸新幹線はグリーン車を上回る座席「グランクラス」を連結している。JR東日本が東北・北海道新幹線に用いているE5系とJR北海道のH5系、上越新幹線の一部列車と北陸新幹線を走るJR東日本所属のE7系、北陸新幹線のJR西日本のW7系だ。

 グランクラスは東北新幹線が全線開業した11年3月にお目見えし、「グリーン車を超える設備」として話題を集めた。これに対し、787系は本家のグランクラスの約5年5カ月前の2005年10月にお目見えした“在来線版グランクラス”のDXグリーンを備える。

 片側の先頭1両目の最前列の3席限定で、背もたれを140度まで倒すことができる電動リクライニング座席を備えており、足元にはスリッパも用意している。ただ、グランクラスのサービス営業時とは異なり、専任のアテンダントはおらず、食べ物や飲み物は提供されない。

 この車両にはほかに通常のグリーン席と、4人まで利用できるグリーン個室を1室備えている。室内には背もたれが倒れる座席を1席と、3人まで腰掛けられるソファー、大きなテーブルをしつらえている。乗車券と特急券のほかにグリーン個室料金を支払えば、4人以内ならば人数に関係なく利用できる。

 関係筋によると、JR九州が20年度に運行が始まる見通しの九州を周遊する観光列車も787系がベースとなる。多様な座席と車内空間を備えた787系がどのような変化を遂げるのか、登場する日が今から楽しみだ。

 【787系】フランスの高速列車「TGV」をほうふつとさせる精悍(せいかん)な先頭形状が特色で、濃い灰色に塗装している。JR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」を手掛けた水戸岡鋭治氏がデザインした。最高速度は時速130キロ。787系にはご紹介した7両編成のほかに6両編成と4両編成もあり、うち特急「きりしま」(宮崎―鹿児島中央)の大部分の列車で運用する4両編成の列車はDXグリーン、グリーン個室、足元が広い普通席、ボックスシートのいずれも備えていない。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まりました。更新時期は不定期ですが、月に1回のペースを目指します。ぜひご愛読ください!