スペインの軽減税率、店内で飲むビールが安上がりな理由

日本でも10月1日からスタートした、消費税の軽減税率制度。新しい制度ということもあり、商品を売る側にも買う側にも様々な戸惑いがあるようです。一方、ヨーロッパでは軽減税率導入は進んでいて、例えばスペインは30年以上前からを採用しています。

とはいえ、制度の導入当初からスペイン国民に受け入れられたわけではなく、適用される税率をめぐり様々な議論が巻き起こってきました。今回の記事ではスペインの軽減税率のシステムと、この制度のスペインでの歴史について取り上げます。


スペインの軽減税率は3種類

スペインで日本の消費税にあたる税金は、付加価値税(IVA)と呼ばれます。このIVAに軽減税率のシステムが採用されています。

大きく分類すると、スペインのIVAの軽減税率は以下の3種類に分類されます。
・税率21%のIVA General(一般付加価値税)
・税率10%のIVA Reducido(軽減付加価値税)
・税率4%のIVA Superreducido(超軽減付加価値税)

スペインの3種類のIVA税率の商品をまとめてみると、目を引くのはアルコール飲料のIVAが21%ということ。日本と比べてワインやビールの価格が安いスペインですが、それでもその価格の21%は税金なのです。

10%の税率が適用されるのは、主に農産物関係・住居関係・交通費関係・宿泊および外食費・レジャーなどに関する消費です。

一方、主に生活必需品や医薬品などの生活必需品には4%の税率が適用されます。ちなみに、医薬部外品と日本で呼ばれている商品、例えば虫除けスプレーや日焼け止めなどにも、4%の税率が適用されています。

スペイン国税庁の資料より筆者翻訳

「外食」「持ち帰り」で税率は同じ

日本でも、今回の消費税改訂の論点のひとつとなった「持ち帰り問題」。日本では、レストラン内で食べるときの消費税の税率(10%)と、持ち帰りにするときの消費税の税率(8%)は、それぞれ異なっています。

しかしスペインでは、レストランでの食事のIVAは常に税率10%。レストラン内で食事を食べても、テイクアウトして外で食べても、この税率に変化はありません。また、ビールなどのアルコール飲料も、レストランでは同じ10%税率です。

スペインの町中で頻繁に目にするバール(BAR)では、飲み物を頼むことはもちろん、簡単な食事ができるところも少なくはありません。そのようなところでも、やはりIVAの税率は10%。スペイン名物のボカディーリョ(フランスパンのサンドイッチ)を、バールの中で食べても、持ち帰りにしても、支払う価格は一緒なのです。

スーパーで買うより外飲みが安上がり

しかし、スペインのバールでは「ご注文の品物は、このバール内でお飲みください」と書かれた張り紙を、よく目にします。こうした張り紙は、特にバールで最も消費される飲み物である、ビールやワインの消費について注意を促すものです。

というのも前述の通り、バールで飲むアルコール飲料のIVA税率は10%です。しかし、例えばスーパーマーケットなどでビールを購入した場合、そのIVA税率は21%となります。つまりバールで買ったビールを家に帰って飲んだほうが、金額的には安上がりになります。

もしこの方法が認められてしまうと、スペインの小売業の活動を圧迫する可能性があります。そのため、スペインではバールで購入したアルコールはバールの中で消費する必要があるのです。

スペインのIVAは内税方式

なお、スペインのIVAはすべて内税方式です。基本的には値札に書いてある金額を支払えば、IVAも同時に支払うことになります。

ただし、スペインのホテルでの宿泊やレストランでは、料金表にIVAを含まない価格を掲載しているところも少なくありません。スペインを旅行するときには予約時にIVAが含まれた金額かどうか、確認したほうがよいでしょう。

女性用生理用品の税率引き下げも

前書きで「スペインは軽減税率の先輩国」と書きました。この国でIVAの軽減税率が採用されたのは1986年からです。その後、何度かこの軽減税率が改定されましたが、そのたびにスペイン国内で様々な議論を巻き起こしました。

1986年に租税システムとしてIVAが正式に採用されると同時に、最初の軽減税率も適用されることになりました。当時の税率は33%・12%・6%の3種類。最低税率の6%は生活必需品や食料品・衣料品などに課税され、その一方で33%の税率はカラーテレビなど、当時の高級品であったものに課税されました 。

スペインでIVAが最近改定されたのは2018年のことです。この時、コンサート・演劇・スポーツ・闘牛などの入場料へのIVAが10%から21%に値上げされました 。しかし、スペイン人の歌手や俳優、スポーツ選手たちがこの動きに対して反対の意思を表明し、増税反対のキャンペーンを展開します。その中には、有名な闘牛士も含まれていました。こうしたキャンペーンにより、スペイン政府はこの産業の増税計画を白紙撤回し、以前と同じ10%の付加価値税への課税に戻すことを決定しました。

また、同時期には、女性用生理用品への軽減税率適用も議論の的になりました。当初こうした商品の税率は21%でしたが、スペイン国内のフェミニスト団体からの抗議もあり、2018年にスペイン政府は同商品の税率を10%に引き下げ、また2019年中には4%まで税率を引き下げることを決定しています 。

1985年にスペインがヨーロッパ経済共同体 (EEC) に正式加盟したことにより、スペイン経済に姿を現したIVAの軽減税率制度。その税率や商品の変更には、その時々のスペイン国内外における社会的・政治的・文化的状況が強く影響しています。そしてこの制度は、もはやスペインの人々の生活にしっかりと組み込まれているのです。

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