W杯合宿地、選手に好評 情報非公開にもどかしさも【大分県】

切り拓け―おおいた新時代 第11部 検証熱狂の1カ月(5)

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 16日午後。別府市の実相寺多目的グラウンドに、ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の準々決勝を大分で戦うイングランドの選手が駆け込んできた。

 コーチの合図でダッシュを繰り返す。別府湾を望む静かな高台に、地響きのような音が広がった。

 オーストラリアとの決戦が19日に迫っていた。「フィジカル、戦術ともにいい準備ができた」。会見で名将エディー・ジョーンズ(59)は充実感を漂わせた。

 昭和電工ドーム大分(大分市)で5試合があった県内は、約1カ月間で延べ10チームが滞在した。

 別府市の担当職員は練習の約2時間前からグラウンドに待機した。選手の到着に備えて専用器具などの準備を手伝い、去った後は忘れ物の有無を確認しながらごみなどを片付ける。

 過去に受け入れたスーパーラグビーのサンウルブズ(日本チーム)の合宿に比べれば「市が担う部分は少ない。むしろ心掛けたのは、自分たちの存在感を消すことだった」とW杯推進室。チームの集中力をそがない“黒子”に徹した。

 ピッチ周りの警備は連日、地元のラガーマンが無償で協力した。「芝や施設はワールドクラス。オフは別府の街で食事や文化を楽しんだ。とても良かったよ」。官民で整えた環境を、ニュージーランド(NZ)の中心選手ボーデン・バレット(28)は絶賛した。

 「想定外」も起きた。10日早朝。大分市新春日町の豊後企画大分駄原球技場は慌ただしかった。

 台風19号の影響で1次リーグ最終戦が中止になったフランス代表が、急きょ予定を早めて準々決勝の舞台となる大分に入ってくる―。市W杯・五輪・パラリンピック推進局が連絡を受けたのは前夜だった。

 同市は来夏の東京五輪・パラリンピックも含め、さまざまなスポーツの合宿誘致に取り組んでいる。過去には外国チームのキャンプ入りが遅れたこともあった。

 担当の同局参事、村田潤(52)は落ち着いていた。「やるべきことをやるだけだ」。直前までフィジー代表が滞在した球技場の片付けを淡々とこなし、笑顔でフランス代表を迎えた。

 総工費約7億円。昨秋に大改装を終えた県ラグビー界の聖地では3チームが計17日間、汗を落とした。

 スタープレーヤーの素顔に触れられる。「キャンプ地の特権」として、街を散策する選手からサインをもらい、一緒に記念写真に納まる県民も多かった。一方で練習会場や時間などの情報は伏せられ、ファンにはもどかしさも残った。

 別府市は1日、NZ代表との交流イベントを市内で開催。来県が決まった時点から実現を目指し、チームに働き掛けてきた関係者の思いが実った瞬間だった。

 オールブラックス(NZ代表の愛称)に会いに来たファンは約3千人。ラグビー教室で選手はコーチ役となり、県内のスクールに通う約200人の小中学生と触れ合った。

 子どもたちが合唱するNZ国歌を、誘致の初期から携わっている市W杯推進室主査、森修二郎(40)は目を潤ませながら聞いた。

 「調整が最優先のキャンプ地で、どこまで交流ができるのか難しい部分もあった。一流選手との思い出は、きっと未来につながっていくと思う」

 =敬称略=