堂々の勝利

 詰むや詰まざるやの最終盤。羽生善治九段の“王手ラッシュ”が続く。ただ、指は震えていないし、ぐりぐりっと盤面に駒をねじ込むような仕草も見られない▲手つきに力強さが感じられないのは、相手方を応援している当方のひいき目だろうか。しかし、何せヘボ将棋の悲しさ、そこから先が分からない。と、羽生九段がすっと頭を下げた。「負けました」▲25日に指された棋王戦(長崎新聞社など主催)の挑戦者決定トーナメント。対馬市出身の佐々木大地五段(24)が羽生九段を破り、準決勝に駒を進めた▲羽生さんとの対戦はこの欄でも紹介した6月に続いて2度目。〈前回は気負いすぎていました。序盤は広く浅く研究して、リードされないように。中・終盤は力勝負を楽しむつもりでいました〉と対局後にメールをもらった▲言葉の通り、早々に定跡手順を離れ、前例のない将棋に誘導したのは五段の方。「きびきびした指し方で佐々木の良い面が出ました」は師匠の深浦康市九段=佐世保市出身=の評▲最後の局面。〈相手が羽生先生であることは意識していませんでした〉-対局数も勝ち星もランキング上位の常連。誰を負かしても「殊勲」とか「金星」という単語が似合わなくなった。タイトル戦のひのき舞台までもう一息。気の早い期待が膨らむ。(智)

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