血縁を超える愛情 子育てをすることで「親」になっていく 【連載】家族のかたち 里親家庭の今(10)

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 2016年は124人、17年は147人、18年は概数値で119人。長崎県内における人工死産(中絶)の人数だ。思いがけない、望まない妊娠をした結果、奪われている命が存在する。
 そんな小さな命を特別養子縁組につなぎ、救ってきた病院が南島原市にある。「いその産婦人科」(磯野潔院長)。1994年に活動を始め、17年までに39人の妊婦を受け入れ、30人の赤ちゃんを新たな家庭に送り出した。残り9人は実母が自分で育てることを選択している。
 特別養子縁組をあっせんするボランティア団体の協力機関として、全国からの相談に応じてきた。相談者は未婚の母、不倫の末に妊娠した人、中絶が認められない22週を越えてから妊娠に気づき駆け込んで来た人もいる。20代が50%以上、10代も30%を超え、最年少は14歳の中学2年生だった。
 特別養子縁組は戸籍上も「実子」だ。ただ、日本の社会では血縁が重視される傾向が強い。その点について磯野院長はこう力を込めた。「養親になる方は不妊治療がうまくいかなかった人も多い。そんな人たちは心から子どもを望み、何より子どもの幸せを一番に考えている。だから、血縁を超える愛情を持って育ててくれるんです」
 熊本県にある慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)設置に尽力した同病院元看護部長、田尻由貴子さん(69)も「子育てをすることで親になっていく。血はそこまで問題ない」と同調する。
 全国で虐待事件が相次ぐ現状を嘆き「親を責めるだけでなく、そういう大人を生んだ社会の検証が必要」と問い掛ける。「家庭を知らずに育った人間が家族を持ったとき、負の連鎖が生まれる可能性は高い。赤ちゃんは家庭で育てることが大原則」と訴える。
 そして社会に対し、こう警鐘を鳴らした。「里親が不要な社会が理想だが、この先も絶対になくならない。悩める妊婦らの相談態勢など地域で子育て支援を充実させなければ、育児放棄や虐待を受ける子どもは増え続けるだろう」

 


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