被爆地とカトリック 法王来崎を前に(4) 【法王再来日へ】“仲介力”に大きな期待

 バチカン(ローマ法王庁)は2017年に国連で採択された核兵器禁止条約にいち早く批准した。横浜市の日本原水爆被害者団体協議会(被団協)事務局次長、和田征子さん(75)は同年11月、バチカンが自国で開催した「核なき世界」に向けた国際シンポジウムに招かれた。
 和田さんはキリスト教徒で活水中・高(長崎市)の元英語教師。1歳のとき、爆心地から2.9キロの長崎市今博多町の自宅で母らと共に被爆した。
 シンポジウムでは、母から聞き取った証言を英語で語った。自宅の窓ガラスや土壁は爆風で粉々になった。隣の空き地は遺体の焼却場として使われた。救護活動を手伝った際、無残な負傷者の姿にショックのあまり気を失った。
 過去に和田さんが母の証言を文章にまとめた時、母は「こげんもんじゃなか」と不満を口にした。被爆者の高齢化は進む一方だが、あまりにも悲惨な被爆の実相を知らない人が世界には多い。
 「私にとって、被爆者とクリスチャンであることはコインの両面」という和田さん。「証言を語り継ぎ、世界の共通の善のため力を尽くす」と決意を語る。
 現在のローマ法王フランシスコ(82)は原爆投下後の長崎で撮ったとされる「焼き場に立つ少年」の写真に関心を寄せるなど、核廃絶への強い思いを見せている。シンポでは「核兵器は見せかけの安全保障を生み出すだけだ」「被爆者らの声が次世代への警告となるように」と訴えた。
 フランシスコは11月、法王として38年ぶりに訪日する予定。長崎市では24日に県営ビッグNスタジアムや爆心地公園などを訪問する見通しで、核廃絶を訴える意向だ。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲国際運営委員(50)は「核廃絶への関心を高める今年後半で最大のイベント」とみる。
 世界で13億人近いとされるカトリック信者の頂点に立つ法王の言動は世界的に注目される。在バチカン日本大使館元公使の徳安茂さん(68)は「軍事力や経済力がないバチカンが紛争解決に直接貢献することはない」とする一方、15年の米国とキューバの国交回復を仲介した実績などを挙げ「当事国の首脳や国民がキリスト教徒で、善意の仲介者が必要な状況では重大な役割を担い得る」と解説する。
 核保有国と非保有国の対立は依然強い。法王のメッセージと“仲介力”に大きな期待が寄せられている。

【連載】被爆地とカトリック 法王来崎を前に

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