写真はイメージです
菅野さくら(仮名、裁判当時22歳)の母は、娘の交際相手である「シミズ」という男にいい印象は抱いていませんでした。
「シミズとは会ったこともありますが…外見とか職業…印象は良くなかったです。交際に反対したい気持ちはありましたけど、反対することでまた娘の心のバランスが崩れてしまうかもしれないと思ったら反対できませんでした。シミズを信じようと思いました」
一抹の不安を抱いたまま、母は娘が家を出てシミズと同棲することにも反対はしませんでした。
シミズの職業は動画配信者、YouTuberです。配信者と視聴者の関係から、いつしかシミズとさくらは交際をするようになりました。
彼女は以前から心療内科に通っていました。母が心配していた「心のバランス」とはこのことです。
「高校生の時から父と仲が悪かったです。父には精神的な暴力というか、言葉で追い詰めるような部分がありました」
「父にイジメられすぎてボロボロになって、病気になりました」
と、彼女は父に関して供述しています。
両親は彼女が大学に入学後に離婚し、父は出ていきましたが、彼女の一度崩れた心のバランスは治らず、大学は3年生になった時点で「精神的なもので体調が悪くなりすぎて通えなくなりました」と、退学してしまいました。
その後、いくつか仕事をしたようですがやはり精神面の問題でどれも長続きせず
「辛いときは休めるし、出勤の融通が利く」
ということでキャバクラ勤務に落ち着いていました。
「前にも現実の辛さから逃げるために病院でもらったクスリをいっぱい飲んで緊急搬送されたこともあります」
「今思うと、クスリで現実から逃げるクセがついていた気がします」
このような話を聞けば、彼女がずっと危うい状況にいたことは容易にわかるはずです。
そんな彼女に対してシミズは、覚醒剤を勧め、自分の持っていた覚醒剤を使用させました。
まだ20代前半の若さにくわえて、いわゆる「メンヘラ」の女性です。覚醒剤を勧めても断ることができるような相手ではないことはシミズにも理解できていたはずです。
「無理やりでもなかったし断ろうとも思いませんでした」
と、彼女は勧められるがままに覚醒剤を使用しました。
「病院で貰ったクスリでもオーバードーズになったりしてましたけど、シミズと付き合ってからそれはなくなりました。一緒にいて安心できました」
依存する相手がクスリからシミズに変わっただけ、と取ることもできますが、彼女の証言からは彼女なりにシミズのことを頼りに思っていたことがうかがえます。
シミズはそんな彼女のことをどう思っていたのでしょうか?
シミズの自宅で二人で覚醒剤を使った時(起訴はされていませんがマリファナも吸っていたようです)に彼女は錯乱状態になり、隣の家に飛び込んで119番通報を依頼したことから二人の覚醒剤使用が発覚しました。
「自分で通報しようとしたけどろれつが回らないし、わからなくなって隣に行った」
という状況でした。通報したのは隣家の住人です。
この時、シミズは通報もせずに何をしていたのでしょうか?
彼女の覚醒剤の使用はそう頻繁なものではなかったようです。「依存しているとは言えない」という、病院の診断も出ています。「シミズがいなくてももう大丈夫」と思うようになったそうで、シミズ及び共通の知人の連絡先は警察官の前で全て消去しています。
覚醒剤の依存がなかったにしても、彼女の抱える問題は根深いです。解決するためには母親をはじめとして多くの人の手で支え、守っていかなければなりません。
そんな、守られなければならないような女性に対して、仮にも交際までしていた男があろうことか違法薬物を勧めて使用させたという事実に対しては怒りを禁じ得ません。
「覚醒剤はもう二度と使いません。怖いから。死んじゃうから」
彼女にこのような思いをさせたことをシミズはいつまでも胸に刻んで今後の人生を歩んでいってほしいと思います。(取材・文◎鈴木孔明)