子どもだけじゃない! 大人も楽しめる駄菓子屋 商品は千種類以上 菓子問屋が小売りを始めた理由

「駄菓子屋ひなた」で商品を選ぶ子どもら

 倉庫のような建物の中に一歩足を踏み入れると、色とりどりのガムやキャンディー、スナック菓子が所狭しと並ぶ。子どもにとって夢のような空間は、香川県観音寺市で千種類以上の商品を扱う「駄菓子屋ひなた」。会員制交流サイト(SNS)や口コミで評判となり、「たくさん種類があって楽しい」と、週末は県内外から1日に200~300人の客が訪れる人気スポットだ。

 「駄菓子屋ひなた」は、観音寺市の菓子問屋「荻田商店」が商品の保管に使っていた建物を使い、2018年9月にオープンした。約750平方メートルのスペースを最大限活用し、お菓子だけでなくスーパーボールなどのおもちゃも売っている。見ているだけでなんだか楽しくなるような店内だ。子どもに人気のお菓子は「ヤングドーナツ」や「サッカースクラッチ」。大人に人気のお菓子は「おやつカルパス」という。これはお菓子と言うよりおつまみだ。

 店内は、親子連れでにぎわっていることが多く、買い物かごを手にお菓子を選ぶ子どもの姿もあちこちに。高松市から来た中学1年義国優心(よしくに・ひろと)さん(13)は「スーパーにはないお菓子がいっぱいある」とうれしそう。母親の美華(みか)さん(41)も「小さいときに食べたものがあって懐かしい」と話す。

 荻田商店は約100年前から続いてきた。が、近年、取引先の駄菓子屋や商店が後継者不足などで次々と閉店。25年前に比べると、取引先は20軒ほど減った。4代目社長の近藤泰子(たいこ)さん(56)が、このままだと先がないと思っていたとき、「駄菓子屋が身近にない」と惜しむ地元の人の声を耳にした。そして、自ら小売店を開くことを決めた。

 「子どもには珍しい、大人には懐かしい」。これが、駄菓子屋ひなたのコンセプト。多くの人に喜んでもらえるよう、問屋だった強みを生かして品数を豊富にした。どの世代も楽しめるよう、せんべいやカステラだけでなく、酒のつまみも並べた。お菓子を置く高さは子どもの目線に合わせた。工夫を重ねることは忘れない。「憧れだった大人買い」と、楽しそうにお菓子を箱で買っていく成人客が多いのは、うれしい誤算だ。

 週末ともなれば、レジの前にはお菓子を手にする人が列をなす。従業員2人のほか、普段は自転車の卸売業に携わっている夫の弘三さん(55)も店を手伝う繁盛ぶりだ。それでも近藤さんは「薄利多売ですね。休みたくても休めない」と苦笑い。大学生の息子が後を継ぐかどうかは将来の話をしたことがないので分からない。でも、この店を出したことには満足している。「みんなが笑顔になってくれるし、子どもと話すのは楽しい。今来てくれている子どもたちが、大人になっても懐かしんでもらえるよう、長く続けたい」

 ▽取材を終えて

 あまりの懐かしさに、私も取材が終わったらお菓子を大人買いしてしまった。品数が豊富なので、どれを買うか選ぶのも迷いながらだった。それもなんだか楽しかった。働く近藤さんの笑顔も印象的だった。私が子どものときと比べても駄菓子屋を見かける機会は減ったように思う。子どもたちだけでなく大人にも貴重な存在となっているこのお店が、できる限り長く続いてくれればと願っている。(共同通信=家村友梨)

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