人気も実力もどん底 高津新監督の下、再生目指すヤクルト

記者会見を終え、ポーズをとるヤクルトの高津臣吾新監督=10月1日、東京都内の球団事務所

 プロ野球は日本シリーズでソフトバンクが巨人を撃破して今季の幕を閉じた。

 4勝0敗。ソフトバンクの圧倒的な強さばかりが際立ち、シリーズは7年連続でパ・リーグに凱歌が上がった。

 これには敗れた巨人の原辰徳監督が「セ・リーグも指名打者制(DH制)を採用した方がいい」と提案している。

 確かにDH制なら投手が打席に立たない分、打線が強化される。投手交代もしやすくなるというメリットはあるが、敗戦直後の弁では「負け犬の遠ぼえ」に聞こえてしまう。

 日本シリーズだけでなく、今季のセパ交流戦でもパ・リーグが圧勝、この10年間の優勝チームを見ても7勝3敗で優位は動かない。

 ここでもソフトバンクが直近の5年間で4度の優勝を果たしている。つまり、現在のパ・リーグはソフトバンクという王国を頂点に、それを倒さなければ上に行けない構図が全体のレベルを引き上げているのだ。

 昔から「人気のセ、実力のパ」と言われる。観客動員の推移を見ると、かつてほどの開きはなくなったものの、今でもセの優位は動かない。

 今季観客動員数はセが約1486万人(1試合平均3万4655人)に対してパは約1166万人(1試合平均2万7203人)で、1試合に7000人ほどの開きがある。

 巨人、阪神といった人気の伝統球団が毎年300万人以上のファンを集めることや、球場改装でDeNAが飛躍的に数字を伸ばしたことが要因だが、パリーグも福岡、北海道、東北など幅広い地域でフランチャイズが確立されてきている。

 セリーグ側もいつまでも人気にあぐらをかいているわけにはいかない。

 そんな中で人気も実力もどん底に沈んでしまったのがヤクルトだ。

 59勝82敗2分けはセ・リーグ最下位。観客動員でも他5球団の後塵を拝して最下位だから極めて深刻な惨状である。

 成績不振の責任を取って、今オフには小川淳司監督と宮本慎也ヘッドコーチが退任。代わって高津臣吾2軍監督が1軍監督に昇格した。

 「投手陣の再建が急務だから、私に声がかかったのでしょう」と新監督は語ったが、それだけでチーム浮上とはいかないほど問題は山積している。

 チーム防御率4.78の投手陣は12球団でワースト。勝ち頭の石川雅規でも二桁勝利に届かず(8勝6敗)、エースの座に君臨する小川泰弘に至っては5勝12敗の体たらくで再編が急がれる。

 さらに打撃陣に目を向けるとこちらもチーム打率(2割4分4厘)はリーグ最下位。2年目の村上宗隆が急成長して36本塁打、96打点の活躍に光明はのぞくものの、その次の名前が浮かばないのも事実だ。

 加えて大きな問題点となるのがレギュラーの高齢化である。

 外野陣を見ると青木宣親が37歳、雄平とウラディミール・バレンティンはともに35歳、前述の石川は39歳。

 こうしてみると、投打ともに抜本的な改革が高津新監督には求められる。

 元々が「ぬるま湯体質」を指摘されるほど家族的な球団。このオフにはかつての功労者である館山昌平や畠山和洋らをはじめ大量の戦力外通告をしたが、空いた穴を埋めるには一にも二にも若手の成長が求められる。

 内憂外患の「ツバメ軍団」にあって、最大の明るい話題は黄金ルーキー奥川恭伸投手(石川・星稜高)の入団だろう。

 夏の甲子園大会では強豪の智弁和歌山高を相手に23奪三振の快投を見せるなど、高校球界ではナンバーワンの逸材だ。

 ロッテ入りが内定している岩手・大船渡高の佐々木朗希投手よりも即戦力の評価は高い。

 平成の怪物・松坂大輔投手は横浜高から西武に入団した1年目に16勝(5敗)の数字を残して新人王に輝いた。

 そこまでの勝ち星は計算できなくても、仮に先発ローテーション入りして活躍するようならチームの起爆剤になることは間違いない。奥川と新監督人気で観客動員も期待できる。

 東京五輪を来年に控え、新国立競技場に隣接する本拠地・神宮球場も再開発計画の中にある。

 2021年から神宮第二球場が解体されて秩父宮ラグビー場が移転、その跡地に新神宮球場が完成するのは2027年の予定だ。

 その日を待つまでもなく、高津ヤクルトが先に生まれ変わらなければならない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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