ブレない味と心 ロサンゼルスで暮らす人々-vol.806

By Yukiko Sumi

中尾 俊二 / Shunji Nakao シェフ

「料理の楽しさはお客様が答え。ちょっとしゃんとした女性が、食べた瞬間に『うまっ!』って言うと『よし!』と思う。そういう瞬間て面白いじゃないですか」

フランスのミシュラン社が出版し、レストランの評価を星の数で表す「ミシュランガイド」が今年6月、初となるカリフォルニア版を発売した。

ロサンゼルスからは日本食レストラン計11軒が星を獲得。ウエストLAの『Shunji』も1つ星に選定された。

 

オーナーシェフの中尾俊二さんは「ミシュランは本当にありがたいこと」と話すが、星を獲得してからも「新しいお客様も増えていますが、うちは昔から常に新しいお客様が来てくださる」と、特に変化はないという。

 

そこには中尾さんのこだわりも関係する。

「昔はテーブルをもっと置いていましたが、外したんです。板前の数が少ないので、たくさん注文を受けても料理を作りきれない」。

その時々で臨機応変に対応するものの、特にディナータイムはカウンターも3分の2ほどしか開けない。

「何回来ても断られていると言う方もいるけれど、お腹が空いている人を待たせたくない。できる限りはやりたいけど、手は2本しかないから」。

なかなか料理が出てこないなどの状況を避け、一人ひとりにきちんと料理の味を楽しんでもらいたいというお客さんへの気遣いだ。

 

中尾さんが大切にするのは“ご馳走(ごちそう)とおもてなし”。ご馳走するために、食材などをいろいろなところへ探しに行く。

「そのうえでちゃんとおもてなしをする。100%はなかなか難しいけど、できるだけ。そういう気持ちを忘れずに、ここの店もそういうコンセプトでやっています。シンプルでいて難しい。人が増えるとブレるし。でもなるべく気をつけようと思ってがんばっています」。

 

今年6月に発売したミシュランガイド初のカリフォルニア版で1つ星を獲得。しかし中尾さんの“ごちそうとおもてなし”の姿勢がブレることはない

『Shunji』で使用する素材の多くは日本からの輸入。しかし「いいものがあればローカルのものも使う。

特に、輸入規制の多い野菜はここで探す」と言うように、食材探しは中尾さんの日課だ。ファーマーズマーケットに野菜を探しに行く。さまざまなスーパーマーケットにも行く。ゴルフに行くとなると、ゴルフ場近くのスーパーマーケットをついつい調べているという。

「暇さえあれば、休みでもスーパーマーケットめぐりしてますね。休みたいんですけど、本当は。職業病ですね」と笑う。

 

「ここでは入ってくる食材に限りがある。手に入るもので勝負するしかないので、悩んでも仕方ない。精一杯やるだけです」。

小学生のとき、家庭科の授業で習った料理を家で作った。「うまいかまずいかわからないですけど、一所懸命作ったのを母が『おいしいね、おいしいね』って食べてくれて。それからじゃないかなあ、料理に興味を持ったのは」と振り返る。

おいしいものを食べて喜んでもらいたいという“おもてなし”の心の原点だ。

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