「里親が必要ない社会」の理想と現実 最優先は子どもの幸せ 【連載】家族のかたち 里親家庭の今(11・完)

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 「血のつながりはないけれど、子育ての大変さは一般家庭も同じではないでしょうか」。そう話したのは養子縁組里親として新生児を迎え入れた母親。4歳から里親家庭で育った18歳の男子大学生は「血はつながっていなくても分かり合える環境があれば、それは家族だと思います」と言う。
 取材に応じてもらった里親家庭の話を聞くと、「血縁を超えた愛情」があれば子どもが幸せに暮らすことは可能なのだ、と感じた。
 一方、取材を進める中で少し矛盾も感じていた。里親が増えることは果たしていいことなのか、と。裏を返せば、実親と暮らせない子どもが増えるということだからだ。
 関係者は「実親と暮らせるならそれが一番」と口をそろえる。「里親が必要ない社会」。たしかにそれが理想である。ただ、全国的に虐待の被害が相次いでいる現状をみると、今は「里親が必要な社会」が現実なのだろう。
 中高生を受け入れる専門里親の女性は、日々の葛藤を語ってくれた。何度裏切られても、それでも、子どもの心の寂しさに寄り添い、子どもの幸せを願い、「何かできることはないかと考え続けている」と。
 子どもを育てる一義的な責任は親にあると思う。ただ、どうしても育てることができない場合、子どものことを最優先に考え、先の専門里親の女性のように、そっと手を差し伸べる社会であってほしいとも思う。
 虐待のニュースが報じられるたび、なんてひどい親だ、と世間は怒る。良くも悪くも、子どもにまつわる問題への関心が高まっている。だからこそ今、里親という「受け皿」の課題を通じ、虐待を受けるような環境にある子どもを減らすにはどうすればいいのか、という難題にも真剣に向き合っていく機会にしたい。
 里親家庭が幸せに暮らしていくには学校をはじめ、やはり地域の理解や協力が不可欠。県によると、貧困などを理由に実親と暮らせない子どもは長崎県内に約530人いる。里親の一人は「遠い国の話ではなく、まずは自分の身近にある問題だと知ってほしい」と話し、こう続けた。
 「一人でも多くの子どもに『生まれてきてよかった』と思ってほしい」。そんな世の中を目指すのは、社会に、大人に課せられた責任だと思う。


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