白馬を、世界に冠たる「マウンテンリゾート」に!名門スキー場の改革に挑むIターン社長(後編)

1998年の1800万人をピークに、参加人口を減らし続けているスキー業界。多くのスキー場が集客に悩むなかで、飛躍的に集客を伸ばしているエリアがある。長野県白馬村だ。かつては五輪会場にもなったスキー場が今やめざすのは、周年で楽しめる「マウンテンリゾート」。そんな改革を主導しているのは、官僚や経営コンサルというキャリアを経て、Iターンで白馬にやってきた異色の経営者だった。

プロフィール紹介

白馬観光開発株式会社 代表取締役
和田 寛(わだ ゆたか)
1976年生まれ。東京大学法学部を卒業後、農林水産省に入省。その後アメリカの大学でMBAを取得し、世界的コンサルティングファーム「ベイン・アンド・カンパニー」に転職。2014年、「白馬観光開発」の親会社である「日本スキー場開発」に入社。2017年より白馬観光開発株式会社の代表に就任。

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白馬を、世界に冠たる「マウンテンリゾート」に!名門スキー場の改革に挑むIターン社長(前編)

予想を大きく上回る集客を記録

―新しいコンテンツを立ち上げた後の集客効果はどうですか?

新しいことをすると、お客さんは如実に反応してくれるな、という感触です。「白馬つがいけWOW!」の方は8月から始めたんですが、3ヶ月で来場者数は8000人にものぼります。これは予定していた人数の1.5倍の数字です。「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」はさらに人気が爆発していて、開業約1か月で来場者数は3万人を超えました。昨年と比べて5倍ぐらいの集客がありました。人気のプレッツェルクロワッサンは昼前にはすぐ売り切れてしまう日もあります。

―山の中というロケーションにおいて、飲食のサービスは重要ですよね

そうなんです。だからスキー場の食事はかなり強化してきました。「THE CITY BAKERY」さんもそうですし、軽井沢で有名なパスタ屋さんに入ってもらったりとか、スターバックスさんもそうですし、フルサービスのレストランもあります。食の部分は今後もできる限り充実させていこうと考えています。

―お客さまの比率はいかがですか?

国内と海外の比率が8:2、もしくは7:3の割合です。国内でいうと、東京・大阪・名古屋の三大都市圏が7~8割。残りが近県内という感じですね。白馬の場合、名古屋、大阪からもわりと近いので、比較的西の方からもいらっしゃるんです。

―集客にむけてのアプローチはどのようにされているんですか?

冬でいうと、Webの広告はよく配信しています。あとは自社のSNSでの情報発信も強化し続けていますし、既存の雑誌に広告を出したり。でも重要なのは、派手に広告を打ってお客さんを呼ぶことよりも、どれだけリピーターを残すかなんです。何回来てもらえるかということ。そこで去年から会員制度を作ったり、CRM(顧客関係性マネジメント)のような仕組みを取り入れたりもしています。スキー場って意外と、バイネームでお客さまを掴むのが難しいんですよね。だからWebの直販をやって、そこで集客して、直接アプローチするマーケティング手法も試みています。

自分の会社のためだけでなく、地域の集客装置を担う責任

―雇用面での効果も生まれているのでは?

通年で雇っているのが120〜130人ぐらい。冬になると、プラス300人ほど雇っています。でも人口がそんなに多くないので、白馬の人だけで人を賄うっていうのが難しいんです。そうすると東京や大阪から人を呼んで来なければいけないんですが、いまどき時給800円とか900円で人を呼んでくるっていうのは難しいですし、苦戦続きです。一番良いのは、通年で雇用できるようにして、地元に住んでもらうこと。そういう人を増やすことができれば、僕らも経営的に楽になります。新しいビジネスをすると通年で雇えるようになるので、そうやって増やしていこうとは思っています。

―地元の人々を巻き込んでいく、その秘訣はありますか?

僕らがなぜここで仕事をしているのかというと、最後は地元の人の生活がよくなるためなんです。地元の人が不利なことを僕らが率先してやることはありえません。でもみんなが同じ軸を向いてくれる人たちばかりではないので、そこはきちんと、「今こういうミッションがありますが、動きませんか。こういうことをやれば、良くなるんですよ」という説明は、泥臭くしつこくやるようにしています。

―東京から地方へビジネスの場を変えられて、感じているギャップはありますか?

自分の会社だけがよくなればいいのではなく、地元の人のためにっていうことを常に思わないと仕事になりません。まさにスキー場って、地域の集客装置だと思うんですよね。そこでお金を稼いだら、魅力ある施設を維持できるように還元する。綺麗な施設があればまたお客さんがやってきて、宿にも飲食店にもお金が落ちて、地域が潤っていく。そういうサイクルが一番の核だと思っていて。そうしたサイクルを回していくためには、東京でコンサルしていた時よりも考える要素が多いし、幅広いことをやっていかなければならない。それがいちばんの違いかもしれませんね。

自分がいちばん好きな世界で仕事をする、という幸せ

―白馬での暮らしについてはいかがですか?

とにかくもう、景色が綺麗です。白馬に家も建てたんですけれども、山が本当に目の前に見える。田んぼのど真ん中にあるので、冬の朝は起きると一番大きな窓から真っ白な山がバ〜ンと一面に広がるんです。天気が良いと、軽トラを走らせて一番山の綺麗なところに止めて、荷台でランチをしたりだとか。自分がいちばん好きな世界で仕事をやっているっていう実感があるし、やったことが形になるので、わかりやすい。「山が綺麗だよね」と言っていたところに施設を作って、その眺めを見たお客さんが喜んでくれている。その瞬間を間近に見ながら仕事をするのはすごく楽しいですよ。暮らしの魅力っていうより、僕にとっては仕事の魅力ですね。

―不便さを感じることは?

逆に、白馬だとできないことって、ものすごく少ないと思っているんです。買い物なら、ネットショッピングでどうにでもなるし。僕は物欲があまり高い方ではないので、全然困らないですね。飲食店がもう少しあればいいな、というぐらいで。

―最後に、ご自身の今後のビジョンもぜひお聞かせください

今、仕掛けている最中のものがたくさんあるので、それを5年から10年で形にしていきたいなと。うちは3つのスキー場を運営しているので、それぞれの山ごとに目指すビジョンも描いているんです。みんなでよく言っているのは、「世界の10本の指に入るマウンテンリゾートになりましょう」と。それが1つのゴール。幸いなことに、山と雪、スキー場は、世界と戦えるものがあるので、あとはいかに統一感のあるプランに仕立て上げられるかという話だと思うんです。チャンスは無限に広がっています。

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