都市型スーパー銭湯が「光るサウナ」を始めた理由

漫画『サ道』がテレビ東京系列でドラマ化されるなど、サウナのブームが続いています。従来は中高年男性が利用するイメージが強くありましたが、SNSなどをきっかけに若者や女性にも人気が拡大。サウナの愛好家は「サウナー」と呼ばれ、温冷交代浴で「ととのう」といった“専門用語”を使って交流を深めています。

そうした中、東京都品川区にある「おふろの王様 大井町店」が11月1日リニューアルオープンします。目玉は、都内初という「プロジェクションマッピング 《ロウリュウ》」の導入です。どのような狙いがあるのか、オープン前に開催された内覧会の内容から探ります。


「炎」で光り輝くサウナストーン

おふろの王様は、東京建物の子会社である東京建物リゾートが運営する温浴施設で、東京都や神奈川県を中心に全10店舗を展開。今回リニューアルオープンする大井町店は、JR京浜東北線・りんかい線の大井町駅前に立地する「阪急大井町ガーデン」に入居しています。

東京建物の菊池隆社長によると、2011年に開業した同店の年間来場者は68万人を超え、おふろの王様の旗艦店という位置づけです。今回のリニューアルは老朽化した設備の改修とともに、インバウンドなど新しいニーズへの対応が目的。消費税の増税に伴い、価格を変更しましたが、「値上げした以上のご満足をいただけるようにした」といいます。

リニューアルの目玉となるのは、岩盤浴コーナーに設置された「プロジェクションマッピング 《ロウリュウ》」。ロウリュウは、高温のサウナストーンにアロマ水をかけ水蒸気を発生させることで、体感温度を高めて発汗を促すというサウナの入浴法です。これに、プロジェクションマッピングの要素を加えることで、エンターテイメント性を追求しています。

1日5回ある「おうさまロウリュウ」の時間になると、プロジェクションマッピングの演出がスタート。部屋の中央に置かれた炉が「燃え盛る炎」の演出で光り輝き、バックには壮大な音楽が流れ始めます。

すると、サウナストーンで熱した蒸気が立ち上がり、部屋の温度も急上昇。気がつけば、毛穴から汗が吹き出しています。通常のサウナとは異なる「アトラクション」のような体験です。

インバウンド客や女性客にアピール

なぜプロジェクションマッピングで演出する、派手なロウリュウを導入することになったのでしょうか。東京建物リゾートの日高毅ホットネス事業部長によると、おふろの王様は郊外に立地する店舗がほとんどで、利用者のメインは地域の常連客です。

一方、唯一の都心ビルイン型の大井町店は、品川駅が近いこともあり、旅行者や外国人客や多く、日本のプロジェクションマッピングの技術でインバウンド客にアピールしたいといいます。

「人がやるロウリュウは各地にありますが、映像と風とスチームを融合させたエンターテイメント性を高めたものはあまりありません」(日高部長)

また、郊外店の利用者は40~50代が中心ですが、大井町は20~30代の「働く女性」が多く、そうした人々の満足度を高める狙いもあるといいます。リニューアルで新たに岩盤ルームに「セルフホットヨガスペース」を設置し、ホットヨガのプログラムも用意しています。

ベテランとビギナーの架け橋に

同施設の内覧会に登場したサウナの口コミサイト「サウナタイム」を運営する瀬尾圭太さんは、サウナブームが盛り上がる中、サウナ施設に対して「ベテラン」と「ビギナー」では求める要素が異なる、と分析します。

ベテランは温度の高いサウナと、温度の低い水風呂、休憩スペースがあれば十分なのに対し、ビギナーは入りやすい温度のサウナ、明るくてきれいな空間を求めるそうです。

「温浴施設業界の活性化には、新しいユーザーの参入が必須。ビギナーが入りやすく、ベテランも楽しめるユーティリティな施設が重要になってきます。大井町店はベテランとビギナーの架け橋になると思います」(瀬尾さん)

ほぼ毎日サウナに行くベテランの目線から大井町店を見ても、(1)サウナ室にある白樺の枝を束ねて作る「ヴィヒタ」、(2)都内トップクラスのスチームサウナのセッテイング、(3)アクセスのいい都内の立地では珍しい「外気浴スペース」 が高評価なポイントと語りました。

入館料(大人)は、平日1,380円 土日祝1,780円。岩盤温熱「王蒸房」は平日・休日800円。いずれも税込み価格。東京建物リゾートでは、2021年の開業を目標に進めている埼玉県和光市の新店舗のほかに、今後も大井町のような都市型店舗の出店を進める計画です。

「不動産デベロッパーグループなので、駅前の再開発に強い。競合他社は郊外の借景がいい場所に店舗を構えていくのに対して、東京建物リゾートは都心の再開発の中に入っていきたい」(日高部長)

サウナブームを追い風に再度注目が集まる温浴施設。新規客を取り込み、継続的に訪れるファンを増やすことができるでしょうか。

© 株式会社マネーフォワード