どうして変化した? 時代背景・需要によって変わる鉄道デザイン事情

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鉄道車両のデザインはさまざまな理由で変わります。たとえば、ホームドアの設置が進むことで車両のドア数が少なくなることもあれば、ラッシュ対策でドアの大きさが変わることもあります。世間の需要の変化で先頭車両の展望室がなくなるケースも。

そのほか、どんな理由で鉄道車両のデザインが変更されてきたのでしょうか。主な事例をまとめました。

ホームドア設置で変わる車両デザイン

ホームからの転落などを防止する「ホームドア」によってもデザインが変化/PIXTA

JR東日本の東京近郊エリアでは、誤乗を防ぐために路線ごとに車体の色が設定されています。かつて鋼鉄製の車両を使用していた時代は、車体全体が同じ色(例:山手線=うぐいす色)でしたが、現在ではステンレス製やアルミ合金製の車両が主流となり、車体そのものは銀色に。そして、車体側面の窓の下に色のついたラインがデザインされています。
京浜東北線・根岸線の車両にはスカイブルーのラインが、湘南新宿ラインには、湘南色と呼ばれるグリーンとオレンジのラインが入っています。

しかし、最近は窓の上にラインが入っている新型車両が増えてきました。主な例では山手線のE235系です。これは、ホームドアの導入が進んでいることによるもの。窓の下に描かれているラインはホームドアに隠れてしまい、ホームにいる乗客からは見えづらいのですが、窓の上に入っているラインだと、ホームドアがあってもラインの色をはっきりと判別することができます。
複数路線が乗り入れている駅においては、列車の判別に有効な方法といえるでしょう。

JR東日本のE235系、側面にはラインが入っていませんが、代わりにドアとドア上部が山手線のカラーであるうぐいす色に着色されています/PIXTA

今後はさらにホームドアの普及が進み、また複数路線が乗り入れる駅も増えるでしょう。

ホームドアがあってもどの路線の車両であるかが判別しやすいよう、車両の窓周辺のデザインはもっと変わっていきそうですね。

需要で変わる車両デザイン

さまざまなニーズによってデザインが変わる小田急電鉄のロマンスカー(左から30000形、50000形、70000形)/PIXTA

新宿と箱根湯本を結ぶ小田急電鉄の特急電車・ロマンスカーは、時代により求められるものが変わり、車両のデザインや運用が変化してきています。
ロマンスカーは当初、観光客の輸送をメインに使われていました。車両の先頭部分に展望席が設置されていたことからもよくわかると思います。

ところが、1967年にロマンスカーが町田駅(当時は原町田駅)に停車するようになると、状況は少し変わります。新宿から下りのロマンスカーに通勤帰りの利用者が増え、徐々に通勤客向けに特急が増発されていきました。
その後、ロマンスカーの日常利用はさらに増え、1996年には小田急ロマンスカー最大の特徴ともいえる前面展望席が存在しない車両「30000形」が登場しました。

このころ、バブル崩壊後の景気低迷により箱根湯本行き特急の利用者数が大きく落ち込みましたが、この前面展望席が存在しなかったことも、その一因として挙げられています。

その後、ロマンスカーは観光特急の原点に立ち返ります。2005年には前面展望席つきの車両「50000形」が登場。最新の車両「70000形」は2018年度グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を受賞するなど、デザイン面でも高い評価を受けています。

目的で変わる車両デザイン

JR東海の東海道・山陽新幹線も性能向上にあわせ先頭車両のデザインが変化しています(左がN700系、右が500系)/PIXTA

新幹線の先頭車両のデザインも変わり続けています。
1964年に東海道新幹線が開業した際に使われた車両「0系」の愛称は“団子鼻”。航空機を参考にした丸みのある形状は、多くの人に親しまれました。
その後、新幹線の先頭車両は「鼻」が少しずつ長くなります。1997年に登場した「500系」では「鼻」の長さが15mに。現在、東海道・山陽新幹線で多く走っている「N700系」の「鼻」は10.7mです。

新幹線は、時速200km以上の高速運転を前提としているため、空気抵抗や騒音を減らす目的で先頭部が尖っている構造にしています。とはいえ、客席数も確保しなければなりませんので、「鼻」は長ければ長いほうがいい、とはなりません。今後、新幹線の先頭車両のデザインがどのように変わっていくのか要注目ですね。

ラッシュ対策で変わる車両デザイン

首都圏では、朝の通勤時間帯には2~3分間隔で列車が運行されています。しかし、乗り降りに時間がかかってしまうと、発車が遅れ、遅延が拡大していきます。そのため、通勤に使われる車両のドアにはさまざまな工夫が凝らされています。

首都圏の鉄道混雑率の上位常連・東京メトロ東西線では、ワイドドア車を導入。一部車両のドアの開口幅は180cmと、他の東西線の車両より50㎝も広くなっています。
ワイドドア車は朝のラッシュ時に優先的に運用。ドアの幅が広い分、開閉に時間がかかりますが、混雑緩和に一定の効果があると判断されているようです。

また、ドアの枚数を変えたというケースもあります。
一時期、山手線や埼京線で片側6ヶ所にドアがある車両(6ドア車)が走っていました。ドアの数が多いと、一度に乗り降りできる人数も当然増えますので、ラッシュ時の対策としては充分なものでした。
しかしながら、ホームドアの設置に際し、車両によりドアの数が異なると運用上不都合が生じるため、山手線や埼京線で6ドア車が走ることはなくなりました。

鉄道車両デザインの第一人者が手がける車両デザイン

鉄道車両デザインの第一人者に水戸岡鋭治さんという工業デザイナーの方がいらっしゃいます。水戸岡さんはJR九州の車両のデザインを多く手がけてきており、これまでに以下のような車両をデザインしてきました。

● グッドデザイン商品に選定された「883系電車」(特急「ソニック」に使用)
● オール革張りシートにフローリング床の「885系電車」(特急「かもめ」に使用)
● 西陣織風の座席、洗面所にイグサの縄のれんを使うなど和のデザインを実現した「九州新幹線800系電車」(九州新幹線「つばめ」に使用)

それまでの鉄道車両の常識とは異なる水戸岡さんのデザインは高い人気を誇ります。

2013年に運行を開始したJR九州の周遊型臨時寝台列車「ななつ星in九州」は第1回日本サービス大賞内閣総理大臣賞を受賞/PIXTA

JR九州以外では、岡山電気軌道、和歌山電鉄、しなの鉄道、富士急行などで水戸岡さんデザインの列車を見ることができます。

また、最近では建築家の方がデザインする鉄道車両も登場しています。
ロマンスカーに使われている小田急電鉄の特急用車両「小田急70000形電車」は建築家の岡部憲明さんが、Laview(ラビュー)という愛称を持つ西武鉄道の特急用車両「西武001系電車」には、同じく建築家の妹島和世(せじまかずよ)さんが、それぞれデザインに携わっています。斬新な外観に目が行きがちですが、快適な空間を実現しており、車内からの眺望も抜群。特急用車両にふさわしいデザインとなっています。

まとめ

少し前までは、鉄道車両はどちらかというと「効率重視」の考え方でデザインされていたようにも見えますが、近頃は日常使用する列車は「安全であること」、旅行等で利用する列車は「快適であること」を重視しているように感じます。
普段通勤で乗っている列車も、「なぜこのようなデザインなんだろう」と考えてみると、通勤時間が少しだけ楽しくなるかもしれませんね。