ついに“マクドナルド超え”、「ワークマン」の企業価値が6000億円に達したワケ

株式市場でワークマンが存在感を高めています。10月11日には、JASDAQ市場でマクドナルドを抜き、時価総額1位となりました。足元では急騰ペースが落ち着き、再びマクドナルドの後塵を拝する形となっていますが、それでも6,000億円以上の時価総額を誇る日本有数の大企業に成長しています。

日本国内におけるマクドナルドの店舗数は2019年9月時点で2,902あるのに対し、同時点のワークマンは全国848店舗と、3分の1以下の水準です。立地からしても、駅や都心にも店舗を構えるマクドナルドと比較して、郊外での出店が多いワークマンの店舗はそれほど目立つ存在ではないかもしれません。

私たちの日常生活の感覚からすると、ワークマンの快進撃はいまいちピンと来るものがなく、何がすごいのか、しっくり来ていない方も多いのではないでしょうか。ワークマンの何がここまで評価され、マクドナルドの時価総額を一時的に上回ることができたのか、考えてみたいと思います。


徹底したデータ・自動化戦略が奏功

市場関係者の度肝を抜いたのが、ワークマンが9月に公表した2019年8月の月次売上高です。猛暑の影響で、ファン付きの「空調服」が世間の注目を集めたこともあり、前年同月比で59.5%の売上増を達成しました。

翌9月の月次売上高でも、「さすがに猛暑が過ぎ去った後ということもあって、伸びが期待できないのではないか」という観測もある中、同20.6%と堅調な売上高の増加を示しました。

10月29日には、2019年度第2四半期(4~9月期)の業績予想を上方修正。本業の儲けを示す営業利益の見通しを、従来の63.9億円から86.0億円に引き上げました。仮に予想通りの業績推移となれば、上半期としては9期連続で最高益を更新する見込みです。

その背景としては、単に空調服が好調だったという以上に、ワークマンの掲げる「データ経営」に基づく徹底的な標準化の成果が現れてきたことが大きいと考えられます。

NPO法人・ビジネスシステムイニシアティブ協会の第67回定例報告会の要旨によれば、商材の発注は各店舗の店長が経験則に基づいて実施するのではなく、自動発注システムで在庫管理を行っている、とワークマンの土屋哲雄常務が言及しています。

その結果、同社は全国で標準化された100坪の売場において、ほとんどの作業服の品ぞろえが統一化されています。つまり、ひとたび売れ筋の商品が出ると、その商品が全国の店舗で一斉に展開され、売り上げが大きく押し上げられるというわけです。

実用的・低価格にカジュアルさを付加

こうした取り組みの下で、ワークマンが取り扱う全ジャンルのうち、存在感を高めているのがカジュアルウエアです。2017年度は10.9%だった同ジャンルの売上高構成比が、2018年度には11.3%まで上昇。2019年度第1四半期(4~6月期)は14.9%と、一段と伸びています。

同四半期のカジュアルウエアの売上高は42.9億円。前年同期に比べて45.6%増と、実際の売上高も大きく拡大している格好です。その背景には、ワークマンがこれまでの主要ターゲットであった1次産業従事者や、職人の人口減少があると考えられます。

これまでは、プロの現場での使用に耐えられる耐久性や機能性を、購入しやすい値段で提供してきたことで成長してきましたが、開催が来年に迫ってきた東京オリンピックなどの影響もあり、足元ではスポーツやアウトドアレジャーへの関心が高まっている状況です。

このタイミングで、ワークマンは「アーバンアウトドアスタイル」を求める消費者をターゲットにした機能性ウエアを提供し始めているのです。登山などに代表されるアウトドアレジャーでは、丈夫で機能性が高い商品が求められます。ワークマンは、作業着分野での確かな実績と商品力を持って、アーバンアウトドア分野の市場に参入しているのです。

ワークマンが次に大きな注目を浴びる可能性のあるタイミングは、来年の東京オリンピックでしょう。

東京都などが掲げた暑さ対策は、「かぶる傘」や「うちわ配布」といった、根本的な解決策とは言いがたいものでした。抜本的な解決策が見つからなければ、観客は各自で自衛策を取ることを余儀なくされることでしょう。ここで有効な策の1つとして空調服が取り上げられれば、ワークマンの売り上げを押し上げるかもしれません。

株価の指標面からは手を出しにくい?

しかし、株価の指標面を見ると、状況は少し異なります。ワークマンの信用取引残の推移を見ると、現時点で個人投資家を中心とした買いが相当に入っていることも事実です。足元の信用買い残高は129万1,400株で、前週比で6%以上も残高が積み上がっている状況です。

さらに、10月16日には特段の材料がなかったにもかかわらず、株価が9,650円から8,000円へ高値から一時17%以上も急落するなど、ボラティリティ(価格変動の大きさ)が高まっています。高値圏でのボラティリティの高まりは、市場参加者の間でも方向感に迷いが出てきたことを示唆するもので、株価急落の原因になることもしばしばです。

足元のPER(株価収益率)は58.96倍で、一般的には“割高”と認識されてもおかしくない水準。仮に購入を検討されている場合は、そのタイミングについて慎重に判断すべきかもしれません。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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