日常の動きを音楽に フランスのアーティスト・シャソール

(c)Masanori Naruse

 休日に料理を作りながら、音楽を聴くのは至福の時だ。でも、昔から耳になじんでいる曲を、いつも選んでしまうのが悩みの種。五十路を数年後に控え、私の耳もすっかり保守化してしまったらしい。

 そんなことを考えていた時、あるアーティストの来日公演に誘われた。フランスを拠点に活動するピアニスト兼作曲家のシャソール。「日常音を音楽に変える魔術師」という触れ込みに引かれ、会場のビルボードライブ東京(東京都港区)を訪れた。

 シャソールは1976年、カリブ海にあるフランス領マルティニク島出身の両親のもとに生まれた。米バークリー音楽院に留学。映画音楽やオーケストラの指揮を手掛け、音楽家としてのキャリアをスタートさせた。

 ステージはシャソールが担当するキーボードと、ドラムのシンプルな構成。中央にスクリーンが設置され、序盤に、子どもたちの手遊びや、バスケットボールのドリブルのシーンなどが繰り返し映された。2人が奏でる音楽は、この映像とうまくシンクロ。次第にうねるようなグルーブ感で会場が包まれ、普段は気にも留めないような動きの一つ一つにリズムが潜んでいることに気付いた。今回のライブのテーマはさしずめ「日常の動きを音楽に変える」試みだったのだろう。

 ユニークだったのは、他にも。数人の男女が1人ずつ新しい単語を口にして一つの文章を作る、連想ゲームのような言葉遊びがスクリーンに映し出された。「The birds」「are」「just」「flying」「over」「the planet」などと続き、そのイメージに合わせて映像と音楽がめまぐるしく変化した。「次はどんな展開に?」と、わくわくしている自分に気付き、想像の世界が無限に広がっていくような気分になった。

 「遊ぶことは一番大切なこと」と、ステージであいさつしたシャソール。今回の公演内容をベースにした新譜「LUDI」を2020年初頭に発売する予定だという。どのような作品に仕上がっているか、今からリリースが楽しみ。世界の新しい音楽に触れたいと考えている人にお薦めだ。(松木浩明・共同通信記者)

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