F1 Topic:ハミルトンのメキシコGP逆転優勝を陰で支えた代役レースエンジニア

 F1第18戦メキシコGPで見事な逆転勝利を飾ったルイス・ハミルトンだが、メキシコGPに来る前は、「正直、優勝は期待していなかった」という。そのハミルトンの週末を支えたのが、3人のエンジニアだった。

 そのうちのひとりが、個人的な医療処置を受けるためにメキシコGPを欠席したレースエンジニアのピーター・ボニントンに代わって、ハミルトンとタッグを組むことになったマーカス・ダドリーだ。

 第17戦日本GPまではパフォーマンスエンジニアとして、ボニントンとともにハミルトン車を担当しているダドリー。パフォーマンスエンジニアは、データエンジニアとも呼ばれ、テレメトリーによる走行データから、最適なセットアップをレースエンジニアに提案する人物。レースエンジニアの多くがパフォーマンスエンジニアを経験していることからも、ボニントンの代役として、最も相応しい人物だった言える。

 ただし、パフォーマンスエンジニアがデータを解析するのが主な役目であるのに対して、レースエンジニアはドライバーだけでなく、パフォーマンスエンジニア、コントロールエンジニア(ギヤボックスやデフなどの制御)、ストラテジスト、パワーユニットエンジニアらと密にコミュニケーションを図らなければならない。週末を通して、ガレージやホスピタリティハウスで、ダドリーが笑顔で仲間たちと積極的にコミュニケーションを図っていたのが印象的だった。

 しかも、担当するドライバーはハミルトン。当のハミルトンでさえ、「今週末の彼のプレッシャーは相当なものだったと思う。だって、僕は現役のワールドチャンピオンで、勝つために決して妥協しない人物だからね」と語っていたほどだ。

 しかし、ダドリーはそんなプレッシャーを跳ね除け、緊張している様子を見せないよう、笑顔を絶やさずに、かつ緊張感を持って決してミスを犯さず、ワールドチャンピオンのレースエンジニアという難しい役割を見事にこなした。

 レース後、メルセデスF1代表のトト・ウォルフは「彼はもともとルイスのデータエンジニア(パフォーマンスエンジニア)だったから、ルイスと仕事するのは初めてではないが、突然の配置転換は簡単なことでなかったはず。にもかかわらず、週末を通して、しっかりとレースチームをまとめてくれた」と、ダドリーの仕事ぶりを高く評価した。

 そのダドリーをパフォーマンスエンジニアとして支えたのが、ドム・リーフシュタールだ。通常のレースではイギリス・ブラックレーのファクトリーからレースチームをサポートしているリーフシュタールにとって、パフォーマンスエンジニアは初めての業務となったが、金曜日から1ストップを見据えたセットアップを行い、パフォーマンスエンジニアとしてハミルトンのマシンをしっかりと仕上げていた。

「マーカスを支えてくれたドムにも感謝したい」と、ウォルフは緊急参戦したリーフシュタールの活躍にも賛辞を贈った。

 このふたりとハミルトンを遠くイギリスから見守っていたのが、ボニントンだった。ハミルトンはメキシコGPの週末に、ボニントンと連絡を取り合っていたことを明かした。

「ボノ(・ボニントン)とは、サーキットとファクトリーをつないている専用回線で連絡を取っていた。さらにテキストメッセージでもやりとりしていた。彼の献身的な姿勢には頭が下がる思いだ。だから、スタート直後にマシンにダメージを負って、あきらめずにベストを尽くした。今日のレースをきっとイギリスで手を叩いて喜んでくれたと思う」

 ひとりがみんなのために、みんながひとりのために——、まるでワールドカップラクビーで快進撃を続けるイングランド代表を見ているかのように、メキシコGPでのメルセデスは強く団結していた。

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