「サッカーコラム」ルヴァン杯決勝 攻撃的両チームゆえに生まれた名勝負

©株式会社全国新聞ネット

札幌―川崎 PK戦で札幌6人目のキックを止める川崎・GK新井=埼玉スタジアム

 歴史の違いだろうか。日本の「サッカー用語」にはあいまいなものが多い。代表例が、戦いの頂点に立ったチームに対する称号だ。「優勝者」「王者」「勝者」「覇者」…。さまざまな言葉が贈られる。表現が豊かなのは誇るべきことだが、少なくともリーグ戦とカップ戦を勝ち抜いたチームの呼び名はヨーロッパに倣ってはっきりさせるべきではないか。リーグを制した者が「チャンピオン」、カップ戦の勝者は「ウィナー」だ。

 どちらも文句なしに素晴らしい。だが、価値がより高いのは9~10カ月の長きにわたって試合を行うリーグのチャンピオンだ。とはいえ、カップ戦にはリーグ戦にはない魅力が秘められている。90分の積み重ねた最終結果で決まるリーグには、「次」がある。場合によっては「負け」も許される。だが、カップ戦は1試合の重みが違う。中でも、トーナメント形式に入ってからは、負けたら終わりだ。それゆえ、負けているチームはギャンブルを冒してでも試合をひっくり返そうとする。結果、見ている者に強烈な印象を残すドラマが起こることも少なくない。今年のYBCルヴァン・カップの決勝は、まさにそういう試合だった。

 10月26日、埼玉スタジアムで優勝カップを掲げたのは、リーグ2連覇中のJ1川崎だった。しかし、延長でも決着がつかずPK戦までもつれた末にタイトルを逃した札幌を「敗者」と呼ぶのには正直、気が引ける。PK戦はあくまでも次のラウンドに進むチームを決める手段であり、記録上は「引き分け」扱いとなる。もちろん、川崎は素晴らしいウィナーだ。その事実を前にしても、札幌が「負けた」という印象は持てない。あえて表現すれば、「カップを手にする抽せんに外れたチーム」という感じだろうか。

 カップ線では過去4度の決勝に進出するも「全敗」。文字通り、川崎は苦杯をなめて続けてきた。さらに不吉なことには、決勝で1点も取れていないというデータもあった。対する札幌は初めての決勝進出だ。ともに初の栄冠を目指した試合が、美しい内容の名勝負となったのは、ともに攻撃的でたとえリードしていても追加点を取りに行こうというメンタリティーを持ったチーム同士の戦いだったからだろう。

 例えば、一方が1点を取ったら守り切るという哲学のチームであったなら、これほど面白い試合にはなっていなかったはずだ。その意味で、この好ゲームは両チームが持つ「魅力の歯車」が絶妙にかみ合ったことによって、奇跡的に生まれたといってもいい。

 シーソーゲームとは本来、このような試合のことを言うのだろう。前半10分に札幌の菅大輝が放った目の覚めるようなミドルシュートで幕を開けたゴールの奪い合い。前半アディショナルタイムに川崎の阿部浩之が1―1の振り出しに戻すと、後半43分に小林悠が2―1となる追加点。残り時間を考えれば、逆転した川崎が逃げ切る可能性が高いと思われた。ところが、札幌が驚異的な粘りを見せる。後半アディショナルタイムも5分が過ぎて得た右CKから深井一希が起死回生の同点ゴール。延長前半9分には川崎DF・谷口彰悟のファウルで獲得した直接FKを福森晃斗が豪快にたたき込み3―2と再逆転に成功した。

 だが、ここで終わらない。もう一幕あったのだ。ファウルが原因で谷口が退場処分となった川崎は1人少ないにもかかわらず、果敢に攻め続け、延長後半4分に小林が再度の同点となる3―3のゴールを奪ってみせた。延長戦120分にPK戦。時間こそ長かったが、全ての時間帯がドラマチックだった。

 PK戦に関して、「運」だという人が多い。しかし、個人的にはそうは思わない。サッカー・ワールドカップ(W杯)におけるドイツ代表を見ていても、準備されているチームはPKでの勝利を必然としているのだ。その意味でGK新井章太が見せた2本のストップは見事だった。新井はここ4試合、リーグでも先発出場しているが、常にチョン・ソンリョンの陰に隠れた存在だった。一方で控えGKというのはPKに強い場合が多い。正GK以上に練習でシュートを受ける回数が多いからだ。

 「俺が一番あいつの努力を知っている。一番信頼している。泣きそうになるくらいあいつの頑張りを知っている」

 こんな最大限の賛辞を贈ったキャプテンの小林は次のように言葉を継いだ。「あいつの気持ちの強いところがPKを止めたんじゃないかな」。この言葉は、新井にとって決勝戦のMVP獲得以上の価値を持つはずだ。

 試合が「あっという間」に過ぎたと感じた原因は、得点場面以外にも両チームが決定機を数多く作り出し、観客の視線をピッチに集中させたからだろう。ベテラン中村憲剛は内容について次のように語った。

 「3―3というファイナルはなかなかないスコアだったけど、ミシャ(ペトロビッチ監督)のサッカーの哲学が引き出してくれたところもかなりある」

 最後まで攻撃的なサッカーを貫いてくれた札幌。中村は試合後、名勝負をともに紡いでくれた敵将に「本当にありがとうごあいました」と声を掛けたという。

 日本代表が快進撃を見せたラグビーW杯をきっかけに、ラグビーに魅せられた人が増えたこの秋。サッカーに興味のなかった人がこの試合を目にしていたら、きっと「ファンへの扉」をノックしただろう。そう思わせる素晴らしいカップファイナルだった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。