【ラグビーW杯】 クラブハウスはカラオケルーム? 日本のクラブチーム事情

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ベッキー・グレイ、BBCスポーツ(東京)

土砂降りの中の試合で、選手はあちこち泥まみれになり、観客はつま先を冷やしながらタッチライン側で応援する。試合後にクラブハウスで温かいシャワーを浴びてチームメートと食べたり飲んだりすれば、すべてが報われる。

こうした光景は、イギリス国内のシーズン終盤のラグビークラブでよく見られる。しかし、日本では違う。

日本でも雨は降るし、時には台風も発生するが、気温は20度前後でイギリスよりずっと暖かい。人工芝のピッチ上のどこにも泥は見当たらないし……クラブハウスも見当たらない? そう、日本にはラグビーのクラブハウスがほとんどない(2016年にヤマハ発動機ジュビロのクラブハウスが完成した)。後で行くカラオケの部屋がその代わりを果たすのかもしれないが。

ラグビーワールドカップ(W杯)で、日本代表「ブレイヴブロッサムズ」が史上初の決勝トーナメント進出を果たし、国内のトップニュースはラグビー一色だった。

1次リーグで、日本は「ティア1」と呼ばれるラグビー伝統国相手に実力を見せつけ、アイルランドとスコットランドを倒してベスト8をつかみ取った。

このおとぎ話は、20日の南アフリカとの準々決勝で幕を下ろした。日本のジェイミー・ジョセフ監督は、日本ラグビー界は良い状況にあると話したが、それは草の根レベルでも言えることではないようだ。

日本ラグビーフットボール協会(JRFU)には、東京を拠点とする約80のアマチュアクラブが登録されている。しかし、不動産価格が高いことから、永続的な本拠地を構えられるのはその中のほんのわずかなクラブに限られる。地方自治体から週に1度、ピッチを借りているクラブばかりだ。

長時間労働が当たり前の日本では、練習に割ける時間はほとんどないし、野球などのずっと人気の高いスポーツが他にあるため、複数のチームを組めるクラブは数少ない。

「原始的」な試合日

東京外人ラグビーフットボールクラブは、日本人やイギリス人、スペイン人などから成る多国籍のラグビークラブで、東京を拠点に活動している。

10月5日、日本代表が1次リーグのサモア戦で勝利した後、東京外人のメンバーは横浜市内の駅に集まった。

中国北京のクラブとの対戦を控えているが、選手人数が足りず、神奈川県小田原市のクラブと合同でプレーをする。まずは試合会場を目指す。選手は子供たちの集団に続いてバス待ちの列に並び、最終的になんとか車内に乗り込んだ。

選手の多くは初対面でプレーする。そこで、試合会場までの道のりを、互いを知る時間に充てていた。W杯の観戦で来日したアメリカ人は、ソーシャルメディアで東京外人のことを知ったという。

こうした試合当日のルーティンが、東京外人代表のトミー・ナスノさん(29)が日本のラグビーは「原始的」だと説明する理由かもしれない。

日本代表が世界の舞台で感動を与えた一方で、クラブ同士の試合は、ナスノさんのように個人が好きなことを無償でやっているという感じだ。しかし、この状況が変わるかもしれないという期待感はある。

「最大の問題は支援です。資金が足りていないので」とナスノさんは言う。

「私には、日本代表の活躍がもたらす影響をまだ評価できません。とはいえ、試合を見たあらゆる人々、とりわけ日本人に間違いなく印象を残し、将来への希望をもたらしました。JRFUがユース・ラグビーに投資することで今の勢いを維持し、最終的にトップの相手と対戦をしてティア1の地位を確立できるようになるのかは、時がたてばわかります。4年後のラグビーW杯で、これが一時的なものだったのか、本物だったのかがはっきりするでしょう」

クラブハウスはないが、駅はある

アマチュアレベルで言うと、日本のラグビーはイギリスほど確立されていないかもしれない。しかし日本でプレーする利点はもちろんある。

東京で2年暮らし、ナスノさんのチームでプレーする、北アイルランド・ベルファスト出身のラグビーと旅行専門のフリーライター、デイヴィッド・マケルヒニーさんは、富士山の麓で試合ができることを例に挙げる。

また、人付き合いの側面もある。ナスノさんのチームは、試合後の飲み会を欠かさないという。選手が集まる場所はというと、マケルヒニーさんが北アイルランドで慣れ親しんでいたクラブハウスとは少し違う。

「私たちはいつも日曜日にプレーしていて、勝っても負けても、晴れでも雨でも、飲みに行くんです。駅前の道端で飲みます。コンビニで酒を買って、外で座り込んで。その日に1番活躍した選手を選ぶなど、試合後にやるようなことをしながらね。すごく遅い時間までいる時にはカラオケに行ったりもします。始まりはいつも駅ですけど、時には他の場所へ移動することもあります」

「日本人選手は決して乱闘を始めない」

ピッチ上でも様々な違いがある。試合が終わると、両チームは互いに一礼し、円陣を組んでキャプテンが短くスピーチする。そして贈り物を交換する。

日本人は通常控えめで、社会全体として騒がしい行動は推奨されない。

時には試合中に乱闘が起きることもあるが、日本チームの場合は作法にいささか違いがみられると、マケルヒニーさんは指摘する。

「ちょっとした乱闘があっても日本人は絶対に自分たちから乱闘は始めないし、必ずすぐに事態を沈静化しようとします。間違いなく敬意の要素がそこにはあります。私たちはそれを試合後の飲み会というかたちで示しているんです」

「大学ラグビーの方が重要」

日本のクラブラグビーに微々たる資金しかない要因の1つに、大学ラグビーよりもはるかに重要性が低いとみられていることが挙げられるだろう。

今年1月、明治大学は第55回全国大学ラグビーフットボール選手権大会で優勝した。この時の観客数は2万人以上。全盛期だった1980年代には、6万人以上が決勝戦に集まった。

一方で、クラブラグビーは同様の名声を得られていない。マケルヒニーさんは、W杯がこの状況改善に必要な推進力を与えるかもしれないと期待していたというが……。

「大学ラグビーは間違いなくクラブよりも重要視されているようです。一般大衆スポーツとして発展させるための資金も、活力も、そして援助も不足している状態で選手はプレーしている。こうしたことから、大ブームにしようという関心があまりないことが分かります。ピッチの整備も不十分です。ピッチのほとんどは人工芝ですが、最悪なのは手入れされていない芝生です。ゴールポスト前には基本的に砂利が転がっている部分もあります。日本がW杯のホスト国になることは前々から分かっていました。草の根制度の設置をする時間があったのに、実現していません」

「興味を持つ生徒が足りず、大学チームを編成できない」

ラグビーは、一部の日本の大学で人気かもしれない。しかし、大阪などの特定の地域を除き、ラグビーチームを持つ学校は滅多にないとナスノさんは言う。

イングランドのエクセター大学で4年間ラグビーをしていたナスノさんは、イギリスと日本のラグビーへの取り組み方の違いを分析する上で、信頼できる人物だ。

ナスノさんは、日本の学生は在学期間中、1つのスポーツしか選ぶことができないと説明する。イギリスの大学のように、季節ごとに取り組むスポーツを変えたりはしないのだと。

そのため、ラグビーは野球やサッカーなどもっと人気のあるスポーツにはかなわない。多くの学校ではラグビーに関心を持つ生徒の数が足らずにチーム編成ができない事態になっている。

「イギリスでは幼い時にラグビーを始めます」とナスノさんは付け加える。「日本人の場合、留学などで海外で生活している時にラグビーを始めるのが一般的です。学校では、部員数が揃っているかを確認する必要があります。興味がなければ部活は始められません」。

果たしてW杯の準々決勝進出という日本代表の感動的な躍進は、人々のラグビーへの興味に火をつけたのだろうか?

日本人ファンはW杯を歓迎した。クラブラグビーのアマチュア選手は、ごく一部の限られたチームのみが日曜日の午後に郊外で施設を借りてプレーするという現状から、まもなく脱却できるかもしれないという期待感を抱いている。

どうなるかは誰にもわからない。ナスノさんやチームメイトがクラブハウスを持つ日が、いつか訪れるのかもしれない。

(英語記事 No clubhouse, but possibly karaoke... club rugby in Japan