金正恩の「極秘情報」漏えいで恐怖に震える北朝鮮

北朝鮮メディアは10月16日付で、金正恩党委員長が中朝国境にまたがる朝鮮半島の最高峰・白頭山(ペクトゥサン)に登頂したことと、その麓にある三池淵(サムジヨン)郡の再開発現場を視察したことを報じた。登頂と視察の日時は明らかにされていないが、直前の数日間の出来事と見てまず間違いない。

北朝鮮メディアは通常、金正恩氏の地方視察などの動静について日時を明かすことはない。たまに例外もあるが、中朝国境や軍事境界線付近などに出向く際には、秘密保持の徹底に特に気を使っているようだ。

「妻のスキャンダル」で処刑

理由は言うまでもない、身辺の安全を図るためである。金正恩氏は普通の人と同じトイレを使えない事情もあり、代用品を持ち歩いているとの説もあるが、米国のある軍事専門家が以前、北朝鮮の核兵器開発をけん制するために「金正恩専用トイレを爆撃せよ」と提案したこともあった。

北朝鮮当局が金正恩氏の動静、とくに彼が直接参加する「1号行事」のスケジュールを秘密にするのは、それなりの理由があるということだ。

ところが、冒頭で触れた白頭山登頂・三池淵視察の秘密情報が漏えいしていたことが判明し、関係当局が大騒ぎになっていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

RFAが両江道(リャンガンド)の幹部消息筋の話として伝えたところでは、「1号行事に関する情報の漏えい元を解明するため、国家保衛省が大々的な検閲に乗り出している。その結果、行事の秘密情報が違法携帯電話によって外部に送信された形跡が浮かんだ」という。

違法携帯電話とは、主として中国キャリアの携帯電話機だ。国境をまたいで中国との通話が可能であるだけでなく、韓国などに国際電話をかけることもできる。そのため北朝鮮当局は従来から厳しく取り締まっており、摘発されればスパイ扱いされて厳罰を受けることもある。

そんなリスクを冒してまで違法携帯電話を所持・使用しているのは、脱北ブローカーや密輸業者たちだ。そして、韓国のデイリーNKなどのメディアが彼らとの通話により、北朝鮮国内の情報を得ているのも事実なのだ。

実際、デイリーNKは平壌から三池淵へ向かう際の経由地である恵山(ヘサン)駅が、10月12日午後7時から翌13日午前8時まで封鎖されていたことと、金正恩氏専用の「1号列車」が13日午前5時に同駅を通過したもようであることを把握し、北朝鮮が発表する前の14日付で報道していた。

RFAが伝えた「情報漏えい事件」が、デイリーNKのこの報道を指したものであるかは不明だが、関連している可能性は小さくないと言える。

RFAの現地消息筋は、「今回の検閲は最高指導者の身の安全に関わる問題だけに、これまで他の理由で行われていた検閲とは次元が異なり、住民が恐怖に震えている」としている。

たしかに、金正恩氏は自分の妻に関わるスキャンダル情報の漏えいと絡み、芸術団メンバーらを情け容赦なく処刑したこともあった。両江道での検閲が、悲劇につながることなく過ぎることを願いたい。


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