利便性高め、人口維持も 諫早駅周辺整備事業

建設が進む諫早駅を前にジャズを演奏する大学生。通り掛かりの市民が耳を傾けた=諫早市永昌東町

 諫早駅近くの飲食店。手際良くコップを洗う店主がつぶやいた。「最近、駅前に出店したくても、できる場所がないという話をよく聞く」。地元の不動産業者は「駅周辺の再開発をきっかけに、空き店舗が減り、マンション建設も増えている」と分析する。
 県央の“玄関口”諫早駅は島原鉄道を含め、年間470万人超が利用している。しかし、周辺部を通る複数の幹線道路の整備が進み、2015年に駅前の西友諫早店が閉店。商店街の歩行者通行量は年々減少し、「サンシャイン通り」と呼ばれた町の勢いは影を潜めていった。
 転機となったのは22年度の九州新幹線長崎ルートの暫定開業に合わせ、16年度から始まった市の駅周辺整備事業。店舗やオフィス、ホテル、マンションなどが入る複合型再開発ビル2棟や交通広場などを21年度までに建設する計画だ。
 市が「百年の大計」と位置付けるこの事業の狙いは、交通結節機能の強化。新幹線と在来線・島原鉄道との連結をスムーズにするほか、県営バスターミナルの機能を再開発ビル内に移転させ、バスへの乗り継ぎ時間の短縮を図る。
 温泉などで有名な島原半島3市は、年間500万~600万人台の集客力を誇る。半島への陸の玄関口となる市の年間観光客数も過去5年間、250万~270万人台で推移。諫早駅周辺の利便性がさらに高まれば、市内での宿泊増や消費拡大も期待できるとみている。
 もう一つは、市中心部とともに駅周辺の居住人口を増加させること。現在の市の人口約13万6千人は、40年には10万人台にまで落ち込むとの予測がある。利便性の高い駅周辺と中心部の居住空間を増やし、現在の人口規模を維持する狙いがある。
 懸案もある。再開発ビルの店舗やオフィス区画の売却や自由通路そばの多目的床の活用をめぐり、市議会側は今後の方向性を再三ただすが、市は出店業種の調整などを理由に慎重姿勢を崩さない。
 この夏、駐車場に姿を変えた西友諫早店跡や県営バスターミナル移転後の活用策も見えてこない。
 明るい材料も出てきた。市が進めるハード整備とは別に、地元商店街の経営者でつくる開発会社「四面みらい開発」が先行して動きだした。宿泊者向けの飲食店が少ないという声を受け、昨年秋、諫早名物うなぎ料理と地酒が味わえる飲食店を誘致。10月には幅広い世代が立ち寄りやすい屋台型チャレンジショップを開店した。
 「民間会社が動きだしたことで人の流れが生まれ、町が明るくなり始めた」。こう語るのは地元の永昌東町商店街の宮崎清彰理事長(73)。諫早駅と再開発ビル、商店街、市民憩いの本明川河川敷…、さらに近くの諫早神社などをプラスした魅力づくりを市民の手で加速させるつもりだ。

◎諫早駅周辺整備事業

 施工区域は1.9ヘクタール。諫早市が施工する駅東側の再開発ビルI(3~7階、延べ面積約7千平方メートル)はイベントなどで使える交流広場、店舗、オフィス、ホテル。来年12月完成予定。ホテルエリアは未来エネルギー(同市)を公募で選定。同ビルII(同約1万5千平方メートル)は、特定建築者の大京が16階建てマンション(105戸)と5階建ての駐車場を建設。2021年3月完成予定。その後、公共交通広場と一般交通広場などを整備。駅の東西を結ぶ市道永昌東栄田線(延長800メートル)も整備する。

© 株式会社長崎新聞社