脱税、申告漏れ、所得隠し、どこが違う? チュートリアル徳井さんのケースから考える

個人会社の申告漏れを巡り、記者会見で謝罪するお笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実さん(左から2人目)

 お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実(とくい・よしみ)さんの1億円超の申告漏れ問題が尾を引いている。吉本興業は徳井さんの芸能活動を当面自粛すると発表、人気タレントで番組出演も多かっただけにNHKや民放各局は放送休止を含めた対応に追われている。

 だが、このニュース、そもそも脱税ではないのか。「申告漏れ」と「所得隠し」「脱税」ってどう違うのか。インターネット上では「脱税と申告漏れの差はなんだろう?」などというツイートもあった。少しわかりにくい国税記事の用語の違いを社会部記者時代に国税を担当した筆者がざっくり整理してみた。

  共同通信記事によると、今回は徳井さんの個人会社「チューリップ」が東京国税局の税務調査を受け、2018年までの7年間に約1億1800万円の申告漏れを指摘され、うち約2千万円が仮装隠蔽(いんぺい)を伴う所得隠しと認定された。既に修正申告をすませたとみられる、とある。

 まず、最初に出てくる「申告漏れ」は、経理上の処理の誤りを指す。単純な決算期の計上時期のミスなどがこれにあたり、意図的に申告額を少なくしたものではないという点が重要だ。この場合、過少申告加算税が掛かることになる。

 では「所得隠し」とは何か。問題とされたのは洋服代や旅行代。これは、個人的な旅行の費用や芸能活動外で使っていた衣服の費用を、芸能活動で使うものとして経費に計上していたということになる。これが仮装隠蔽に当たると判断されたと思われる。この場合は申告漏れのケースより悪質性が高いとして重加算税の対象となり、7年前までさかのぼって調査を受けることになる。今回調査期間が7年間と長くなっているのはそのためだ。

 それでは、これらはなぜ脱税とされずに検察当局に告発されないのか。

 法人の場合でも個人の場合でも、意図的に税を免れようとした所得隠しのうち、金額が大きく悪質なケースが脱税として摘発の対象となる。脱税の場合は、検察当局に告発し、刑事事件となる。そのため、対象となった事案が、刑事裁判の中で税を免れていることを立証できることが必要となる。したがって、税務当局がこうした情報を入手し、疑いが濃厚な場合は、国税犯則法に基づき、強制調査(査察)が入ることになる。もし徳井さんが、実在しない会社に業務委託したように装って経費を計上し、そのお金を親族の口座などに隠していたら、所得隠しでは済まされなかっただろう。

ちなみに 徳井さんの個人会社は、16~18年に一切申告をしていない、となっている。無申告の場合は、ケースごとの判断で、故意に申告していなかったことが明らかなら、仮装隠蔽行為と判断され所得隠しとなることがある。さらに、刑事裁判で故意であることを立証できるだけの証拠があり、金額が大きく悪質性が高い場合には脱税となるケースもある。徳井さんのケースは、意図的であることの立証が難しく「申告漏れ」の範囲内と判断したと思われる。

個人会社の申告漏れを巡り、取材に応じるお笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実さん

 また、記事に「修正申告をすませた」と書いてあることにも意味がある。修正申告をしたかどうかは、納税者側が税務当局の指摘を認めたかどうかを判断する目安となるからだ。修正申告すればその指摘を認めたことになり、その後不服申し立てはできないからだ。

 「脱税」「申告漏れ」「所得隠し」の違い、分かっていただけただろうか。少なくともきちんと国税当局を取材しているメディアが書いている記事は、こうした使い分けができているはずだ。徳井さんのケースでは、その後個人所得の無申告を繰り返していたことも明らかになっており、税務当局から何度も指摘を受けたのに改めていないという悪質性は、国税当局の判断とは別に批判されてしかるべきだと考えている。だからこそ、吉本興業は活動自粛としたのだろう。(共同通信=川崎経大)

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